AETE あの人がいるから旅したくなる。アエテ

コミュニティマネージャー・広報
うつみ まなみ

音楽とそれを楽しむ人で溢れる空間が好き。 旅とアートと食にも興味があります。

2018.12.16

1杯のコーヒーを飲むお客様のシーンを描くこと、そしてその想いを共有すること:渋谷

和えて special

■歩きなれた渋谷の街で

渋谷とは何かと縁がある。

上京して初めて友人と待ち合わせた街。そのときは、人の多さとにぎやかさに驚いて「今日はお祭りなのかな」と本気で思った。当時はベビーカステラの屋台もあったから、尚更だ。

それから通学、通勤で乗り換え駅として利用しているので、今では一番身近な繁華街。開発で文字通り日々変化する渋谷も迷わず最短ルートで目的地にたどり着けるようになったほど。

だから、イベント前日に送られてくる住所を見て「ああ、この辺りね」と思うと同時に「このエリアにカフェがあったんだ」と驚いた。

地図ではいつも習い事に行く道の一本奥を赤いポイントが示している。まだ知らない渋谷を知れることにワクワクしながら家を出た。

■お昼から渋谷、旅するトークが始まった

明治通りの一本奥に入ったところに現れるカフェ「ダブルトール」。大きなガラス窓に、淡い緑の壁が印象的な店舗。ヨーロッパの古いコメディ映画で使われていそうなJAZZがBGMとして流れている。

落ち着ける空間。最高。時々疲れてしまう渋谷での休憩所になりそう。知れてよかった。


今回のゲストスピーカーは、世界一おいしいコーヒーを目指されている「ダブルトール」の齊藤オーナー。

「ダブルトール」とはエスプレッソのショットの数である「ダブル」と、カップの大きさが背の高い意味の「トール」から命名したと教えてくれた。

約四半世紀も前に、日本でまだエスプレッソが飲まれない時代に将来を見込んで、エスプレッソコーヒーの特殊な頼み方の名前「ダブルトール」を命名しておけば エスプレッソが流行ったときに「このカフェ、エスプレッソの専門店だね!」 とお客様が想像してくれると 先見の眼を持って付けたらしい。

紹介が一通り終わったあと齊藤さんが「コーヒー屋を表向きやってはいるが、実はコーヒーが最近まであまり好きじゃなかった」と言い出した。

ちょっとまって。今、自分の無知に気づいてコーヒーを勉強させていただこうと前のめりでお話をきいていたのに。

オートバイや飛行機など機械好きで、エスプレッソマシーンをオリジナルで作ったとカフェの奥にある1mほどある世界一横長のマシンを指す。

コーヒーショップを展開する方は全員コーヒーを愛して始めているのかと思っていた。

機械についてまったく知識がない私でも、齊藤さんが趣味の領域を超えて機械工学のマニアであることがわかる。プロより、マニアというほうが愛が伴う感じがしてしっくりくる。

エスプレッソマシーンは豆に水圧をかけてエスプレッソをだしているんだとか。これはバイクのエンジンの構造に似ているそう。店のマシーンには、彼が考案した水圧を変化させることができるレバーが付いている。

このマシーンは、さまざまなコーヒーショップで使われているらしい。

奥ではバリスタである虎澤店長が、すこし誇らしげに大きなマシーンを操り私たちに提供するコーヒーを作っている。

マシーンの間を左右軽やかに動いてる様は、リズムとりながら音楽を生み出すDJのようだなと思いながら、コーヒーを丁寧につくる姿に見とれた。

■「種」を「調理」する

齊藤さんがコーヒーをつくる過程を「調理」と言っていたのが印象的だった。

彼はコーヒー豆を「種」と呼び、果実ではなく種の方に旨味を感じるための栽培方法をハワイの土地を開墾し試している。

コーヒー豆(種)をより美味しくするための探究心がすごい。私達が飲むコーヒーになるまでの過程を考えると確かに「調理」である。

とことんな人なんだな。彼はどこまで行けば満足するんだろう。

エスプレッソ数の名称しかり、私は何かにつけて勉強を少ししただけで知った気になっていることが多い気がしてきた。その気になってるだけだと気付ければいいけど、それすら簡単ではない。

齊藤さんの話を聞いてやっと、「は!」とするぐらいだ。自分の知識がどのレベルなのか、振り返る時間が必要かもしれない。

■コーヒーがカップに注がれるまでのバトン

そこまでの探求心なので当然、調理の過程を全て自分でされるのかと思ったら、焙煎からコーヒーを入れるまでは、各々のプロの役割になると齊藤さんは言う。

大切に育てた豆(種)の旨味を引き出す焙煎は、焙煎のプロに。そして、バリスタがその豆をひきエスプレッソを生み出す。

試行錯誤のバトンを受け継いで注がれるカフェラテが美味しくないわけがない。

バリスタの虎澤店長は、岐阜からラテアートをしたいと上京。しかし、コーヒーマシーンの機械を触ることができたのは、入社して1年半後だったと、参加者全員のコーヒーを出し終わった頃、話をしてくれた。

食器洗いから始まる修行、やりたいことがすぐ挑戦できない中で挫けそうになりながらも、先輩社員に叱咤激励されてきたこと、その経験を積みながらコーヒー1杯への重みと誇りを培ってきたんだろう。

彼の話を聞きながら、私が飲食店で店長していた時の、後輩の事を思い出した。

なんだか彼に似てる。想いと技術的が伴わないジレンマにもがきながら、芯の強さで頑張っていた彼。

後輩を思い出しながら、虎澤さんの当時の苦労を想った。

彼が話すコーヒーの話は全て「なぜ、それをやらなくてはいけないか」という理由とセットだった。

たぶん、従業員に話す時も同じ語り口調なんだろうな。

私も飲食店の店長をしている時に、スタッフにやってほしい作業だけをお願いしても、雑な仕事になって返ってくることがよくあった。行動だけを伝えても、各々の解釈が出来上がり伝言ゲームのように意図とは全く別の事になる。そして、お客様にご迷惑をおかけする結果に繋がる。

1杯のコーヒーを飲むお客様のシーンを描く事、その想いを共有する事が何より大切である事を彼も歴代店長から引き継ぎ受け継いでいるのだろう。

バリスタになるなら、虎澤さんに教わりたいなと思った。

齊藤さんと虎澤さん話を聞いて、 この店の居心地の良さは、店内の内装だけではなく、スタッフ同士が各々の役割に誇りを持ち、お互いを尊重している雰囲気が漂っていることもあるんだろうなと思った。

タバコもお酒も嗜めない私にとって、コーヒーは唯一自分の時間を共にするアイテム。

自分を振り返りたい時、この居心地の良い空間に寄らせてもらおう。

そんな事を思いながら、店をあとにした。


内海麻奈美


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