AETE あの人がいるから旅したくなる。アエテ

22年度編集長
中村 斐翠

真っすぐな人のきらきらした目が好きです。 正しいときに、正しい重さの言葉を選べるようになりたい。

2022.04.01

NewMake×SHOKEIーお花を通し、自分のファッションを表現していくー

和えて special


株式会社Story&Co.は『想いの交差点』を創出する新たなプログラムを今年7月にスタートしました。
サステナブルなファッションコミュニティ「NewMake(ニューメイク)」です。大量消費・大量廃棄を余儀なくされる現代のファッション業界に一石を投じる試みとして、パートナー企業から提供して頂いた洋服や雑貨を利用し、新たな価値作りに挑んでいます。
その拠点となる「NewMake Labo(ニューメイク ラボ)」には個性溢れる作り手・NewMakerが集まり、ものづくりと向き合っています。
私たちはこのシリーズでNewMakerの1人1人にスポットを当て、そのルーツや想いを探ります。そして服を通じて大切な想いや物語のバトンを繋ぎ、新たな価値を生み出すNewMakerの魅力を発信していきます。

Coleman、DESCENTE、Old England それぞれで素敵なドレスやツーピースを制作してくださった SHOKEI さん。普段は代々木公園で花屋を営まれているということで、花屋を開くまでの経緯、作品作りに込めた想いなどよりパーソナルな部分について伺いました。

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NewMaker profile: SHOKEI
大学で建築を学び、大学院で現代美術を専攻。スタイリストアシスタント時代に花を使った
クリエイションに出会い、のちにフラワーショップ「浪漫花店」を立ち上げる。オーナーと
しての傍ら、生花のアートワーク制作や撮影用の装花も手がけている。
https://www.shortcakes.co.jp/
https://www.langman-huadian.tokyo/

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■概念について考え続けた今まで
―SHOKEI さんは服飾を専門的に学んでいたわけではないということですが、大学では何を学ばれていたのでしょうか?

何かを生み出してみたいという漠然とした想いから建築を学んでいました。
建築を通して、ものごとの背景を読み取ったり、求められるかたちを模索してみたりということをしていました。そんな中、吸収してきた知識や経験によって、空間の捉え方が人それぞれ違うということを感じるようになったんです。そこから、空間という概念について深く考えるようになりました。更に派生し、色々な事象の概念を考え直すということに面白さを感じるようになりました。
ファッションの概念について考えるようになったのもこの頃です。元々ファッションには興味があったのですが、私の関心はお洋服の造形的な美しさを追求することではなく、ファッションの概念自体にあることに気づきました。

段々と自分の考えているファッションの概念を表現したいと思うようになり、ドレスという形に落とし込んで展示することにしたんです。当時流行っていたファストファッションに対するアイロニーを込め、「それらを選ぶときに自らの審美眼はあるのか」「マスファッションに流されてないか」という思いで、ファストファッションに重ねて着る、透け透けのドレスを作りました。

―当時 SHOKEI さんの考えていたファッションの概念というものを、もう少し詳しく教えていただけますか。透け透けのドレスがどのようにその概念を表現しているのでしょうか。

当時考えていたファッションの概念は、ファッションとは外側(見た目)ではなく、内側(ポリシー)を象る選択肢のひとつではないか、ということです。そこからファストファッションへと目を向け、ファストファッションへの依存を表現しました。
透け透けの服は、もちろんそのままそれだけでは着ることができません。下に着るもの、つまりファストファッションが無いと成立しない、というドレスです。
ドレスは短冊状のチュールを連ねてシルエットを作りました。下に着るファストファッションに合わせて、短冊状のチュールをかき分けたり束ねたりしてシルエットをアレンジすることで、ひとつのコーディネートが完成するというアイテムでした。

―概念としてのファッションを表現するという形から、SHOKEI さんの服作りが始まったのですね。

ドレスで自分の想いを表現できたという手応えがあったので、「各々が考える空間を建築模型で提案する」という趣旨の卒業制作でも、ドレスを制作することにしました。

―空間の提案をドレスを用いて行ったのですか?

はい。私が提案した空間は、「都市空間を個人が蝕んでいく」というようなものです。少し抽象的なのですが、これからの建築とは、それぞれのパーソナルスペースを都市に拡張していくことなのではないかと考えたのです。そこで、具体的な建築提案の代わりに、身体の周りの空間を可視化するドレスを提案しました。身体の動きによって変わっていくパーソナルスペースを、第2の皮膚のようなイメージで空間化するようなドレスです。チュールでハニカム構造の扇型のパーツをたくさん作って、フリーストップヒンジを使った格子状の下地にそれらを取り付けていき、ドレスのかたちにしました。

―卒業後はどのような進路を進まれたのですか?

スタイリストのアシスタントとして働いていました。
学生時代に考えていたファッションの概念は、書籍や展示会などから派生したものでした。社会に提供されたファッションのあり方を受け取る側だったので、ファッションを提供する側のことも知りたいと思い、今度は社会に出て仕事として関わってみようと考えたんです。実は、お花と出会ったのもこの時でした。

―どのようなきっかけだったのでしょうか。

アシスタントとして参加した数々の撮影現場で、生花が使われていました。あるとき一人で任された現場で、よかれと思って枯れたお花を替えようとしたらカメラマンの方にそのままにしてと言われたんです。それが私にとっては衝撃的で、お花を使って世界観を表現することができるのだと気づきました。

―その後アシスタントを辞めて大学院に入られていますよね。

様々な現場を経験させてもらううちに、もっと自分の表現方法を磨きたいと思い直すようになりました。働いていく中で、自分で得るお金の重さを感じるようになっていたのもあります。最後にもう一度だけ、自分がどのような仕事をしてお金を稼いでいくかじっくり考えたいと思って大学院進学を決めました。
概念的な表現が多い現代美術にはもともと興味があったので、もっと深く勉強すればそこで得る何かが自分の表現の受け皿になるのかもしれない、と淡い期待にすがる思いで入学しました。

―大学院では具体的にどのようなことを学ばれていたのですか?

大学院では主に、インスタレーションといって空間を使った制作手法で作品制作を行っていました。新しくコラージュの手法も取り入れ始め、古材や古物を集めて再構築したり装飾を施したりして立体作品を作っていました。
しかし他分野からなんとか入った私が、現代美術の表現を模索するには到底至らず、現代美術とは何なのかを解釈することで精一杯でした。概念をひとつに決めないことが現代美術であり、それは言葉にすると簡単なのですが、自分の中で一からその発想に到達するまでに大学院の二年間かかってしまいました。

「お花を通し、自分のファッションを表現していきたい」
―大学院卒業後、今に至るまでの経緯を教えてください。

アシスタント時代によく見た生花を使った世界観の表現が忘れられなくて、自分でもたびたび作品撮りをしていました。店としてオープンするまでには、生花店で働いていたり、今とは別の場所にアトリエを構えたりしていたこともあります。色々な要因があって長い間ずっと始動のタイミングを見計らっていましたが、環境の変化やご縁があって現状に至りました。お花を通して自分のファッションを表現していきたい、という想いがあったんです。

―「お花を通してファッションを表現する」というのは、どういうことでしょうか。

概念や表現に触れてきた紆余曲折の中で、「ファッションとはその人のスタンスである」と考えるようになりました。
人はそれぞれ違った価値観や審美眼や、原風景を持っていると思います。表現の向き不向きはあるにせよ、そのような内面的なものの中から何を表出させるかを選ぶことがファッションだと思うんです。今はいろいろなものにバックストーリーがあり、選択肢も増えているので、選ぶことに重きが置かれています。自分の所有するものがもはや形に見えるものだけではなくなっているので、複雑化している時代だとも思います。なので、ファッションを投影する対象は服でなくてもいいと思うんです。お花を作ったりセレクトしたりという工程を通し、ファッション、つまり誰もが持っている価値観や審美眼、原風景を表現するきっかけが作れたら、という想いがあります。

―お花を通した SHOKEI さんのファッションの表現の仕方について、もう少し詳しく教えてください。なぜお花屋さんだったのでしょうか。

実は花屋は、今やっている事業のうちのひとつなんです。お花で表現する仕事をしていきたいと思って手始めに取り組んだもののひとつであり、最終形態ではありません。
私は最終的には、ディレクターとしてお花を使ったアートワークでクライアントのコンセプトを可視化する、ということをしていきたいと思っています。私が今まで積み重ねてきた表現方法のうち、お花が一番自分の内面的なところをトランスレーションできる手段だと思ったからです。

―実際にお花を選び、作品にしていく中で、大切にしていることはありますか?

お花を作品にするところに私が介入する意味は、伝えたい感情を補うための雰囲気を作り出すことかなと思っています。なので、思いや雰囲気を汲み取ることはもちろんですが、それぞれ隣り合う色同士の組み合わせをとても大切にしています。色って、隣り合う色同士で見え方が変わるんです。

―一昨年に、代々木公園に店舗を構えていますよね。リアルの場を持ったことで何か変化はありましたか?

ひとつ私にとってのフィルターができました。
今までは、仕事を請けながらも、自己表現の域で作品としてお花を扱うことが多かったのですが、店をつくり間口を広げることで、自分以外の多くの想いを取り入れることになりました。そうするともちろん様々な人の想いを汲み取っていく必要がありますが、そこに自分が提供すべきお花の美しさをどう落とし込んでいくかという点で、表現を外向きにするフィルターができたと思います。このフィルターによって、ほかの人やものとのコラボレーションができるようになったとも考えています。

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