AETE あの人がいるから旅したくなる。アエテ

19年度編集長
早川 遥菜

ハンバーグが大好きと公言していますが、 「母の作る」ハンバーグが大好きなのです。 気持ちに素直な人であり続けるために、 今日も沢山の物語に出会います。

2020.04.16

築地場外市場でほろ酔い♪ぶらり旅

和えて special

■はやく飲みたいです

まだ5月だというのに。なんて暑さだろう。
信号待ちをする人々は、太陽と顔を合わせないように、うつむいたり、日陰に隠れたりして夏を嫌がっているように見える。

こんな暑さには、やはりキンキンに冷えたビールが必要なのでしょう。
そんな人々の想いに応えるかのように始まった、築地飲み歩きの旅。
市場が豊洲に移転してしまったため、場外も移動してしまったと思われがちだが、
実は今、築地には再び人気の的が当たり始めているようなのだ。
豊洲市場の施設は、綺麗に市場やお店が収められてしまい、昔の雰囲気を感じることができないため、ごちゃごちゃ、わちゃわちゃ。
魚の生臭さや人々の威勢の良い掛け声を期待していた人たちは、その掛け声の聞こえる方へ、耳を研ぎ澄ましてやってくる。その街は、やはり築地なのだ。
実はそんな懐かしい雰囲気を味わえる築地を求めてやってくるのは、外国人だけでなく、若者も多いのだとか。

そんな今日の飲み歩きのプランを考えてくださったのは、ホストである東京メトロさんと、中央区観光協会のスタッフ、ボランティアガイドの皆さん。

今日は人気イベントのため、班は二つに分かれての飲み歩き。私は1班に混ぜてもらい、
築地を巡ることになった。
がやがやと賑わう築地を回るのに、ガイドさんの声が聞こえなくてはもったいないということで、観光協会さんが用意してくれた特別イヤホンを使って、飲み歩きがスタート。

今回1班のボランティアガイドを務めてくださったのは、かれこれ10年ほどガイドを務めるという、吉田公一さん。そして後ろで私たちの列を見守ってくださるのは、観光協会の草野敦子さん。
草野さんによると、この中央区ボランティアガイドは大変な人気で、毎年300人以上が志願。その後中央区観光試験に合格した約100名の方がガイドになることができるのだとか。
この試験問題に私も挑戦してみたけれど、問題がディープすぎて、一問も解けず(笑)…。
そもそもこの中央区観光ボランティアがなぜ人気かというと、中央区には案内したい街が沢山あるからなのだとか。築地だけでなく、日本橋や東京駅など、範囲は様々。だからこそ、細かいところまで範囲が及んでいて、難易度も高いのだそう。
そんな中央区の達人の吉田さん、実は生まれは秩父。仕事の都合で中央区に越してきた際、もともと趣味で行っていた自然ガイドから、人々にその街の魅力を伝えたい、ということで受験することに決めたらしい。
しかしこのガイドには、3年に1度という任期つき。なので、吉田さんはもう3回以上受験されたということになる。

どんなに物知りで試験を合格しても、人々に魅力が伝わる話し方が出来なければ、
ガイドは務まらない。
そんな過酷な条件の中でも、吉田さんは私たちにわかりやすく伝えてくれる。

最初に場外市場と書かれたアーケードの下を通る。吉田さんによると、この道は多くの人が通るために、賃貸料が他の場所に比べて格段と高いという。しかしそれでも儲かるというので、市場関係の方だけでなく、画廊さんも多く利用し、自分の作品をみてもらおうとしていたらしい。賃貸料まで教えてもらえるんなんて面白すぎる。

■ビールと、鯨と、給食の思い出

最初に私たちが飲める場所は、鯨専門店、「登美枠」さん。
鯨だけを扱い、鯨だけを売っているお店は、東京の中で唯一ここだけだという。
登美枠のお店の方は、お手製の鯨の帽子をかぶりながら、私たちに鯨の魅力をたくさん伝えてくれた。

実は私、鯨を食べたことがなく、ここで食べた鯨が初鯨、ということになる。
「あなた、初めての鯨がこんなに美味しいのは、幸せよ」
そう話してくださったゲストの多くの方は、給食で鯨の竜田揚げを食べていたという人たち。鯨は昔学校のこんだてに登場していたなんて。
それでもこんだてに登場する鯨は一度冷凍されたものを解凍したもの。そのため臭みと固さがどうしても生まれてしまい、本来の鯨の味わいを楽しむには難しかったのだとか。
「そのために、鯨が苦手な小学生も多かったんですよ」
でも、ここの鯨は違う。柔らかくて臭みもなく、本当に美味しい。

「初めてのクジラが、僕たちのクジラでよかった!!!」
登美枠の方にもそんなことを言ってもらえると、なんだか私まで嬉しくなってくる。

■ほろ酔い築地巡りはつづく

次に向かったのが、鮭専門店の「昭和食品」さん。
鮭は、旅する魚。
ゆっくりゆっくり旅をして、そして戻ってきた鮭には、多くの経験と出会いが「うまみ」となって私たちのもとにやってくるというのだ。
旅する私にとって、旅する魚との出会いはなんだか仲間を見つけたよう。
クーラーのないじとじととした暑さの中、魚を売り続けるお母さんたちを少し心配に思いながらも、次のお店へと向かう。

次に向かったのが、「大定」さん。卵焼きの老舗である。
一本一本手焼きで焼いているところに、そのこだわりはあるという。
機会を使わないことによって、手間はかかるがその分老舗のすし屋からの信頼は厚い。

こだわりの卵焼きは、だしの種類によって、甘さ、濃さを変えているらしく、
今日は特別に、作業現場をのぞかせてもらえることに。
玉子焼き機は、片手で持つには重すぎて、よろけてしまった。こんな重いものを持ってこのふわふわの卵焼きが作られているのか。「こだわり」には、それ相応の苦労と、努力が重なった結晶のようなものだということに、改めて気づかされる。
そしてこの職人技こそが、均等な層を作り出し、お寿司のネタとして使われるそうなのだ。

そして最後に向かったのが「東印度まぐろ商会」さん。
「あついですよお」と、私たちの待つテーブルまで運ばれてきたのは、
なんと「あら汁」だ。
あつあつだけれど、さっぱりしていて、この暑さだからこそ、飲むべきな一品。
そしてマグロの竜田揚げが本当に、美味しい。

日本に生まれてよかった、とついこぼしてしまうほどの、ほくほく、あつあつの魚を満喫したところで、この旅メインのビールが運ばれてくる。
ゲストの皆さんもほろ酔いになったところで、今回のガイドツアーは終了だ。

■旅するさかなと、旅するわたし

最初はあんなに暑さを避けていた人たちも、今はその暑さを楽しんでいるかのように
ビールを片手に、真っ赤な顔をして笑っている。その笑顔は本当に素敵だった。
耳に付けていただけのガイドさんの声も、いつのまにか顔と顔を見あって、お話するようになっていたり。
日本に住んでいても、まだまだ知らないことが沢山あって、
普段住んでいるところからは、もちろん築地の活気溢れる声は聞こえない。
旅しよう、旅して、日本の物語を見つけよう。
旅する魚に追いつけるように。

早川遥菜

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