AETE あの人がいるから旅したくなる。アエテ

19年度編集長
早川 遥菜

ハンバーグが大好きと公言していますが、 「母の作る」ハンバーグが大好きなのです。 気持ちに素直な人であり続けるために、 今日も沢山の物語に出会います。

2018.09.13

今だからこそ、小さい作品ではなくもっと空間を使って漆の良さを体感してもらいたい:六本木

和えて special

■駅の名前を意識して聞いてみる

ガラガラとキャリーバッグを引きながら東京の街を歩く、今回はいつもとちょっと違ったスタイルでの参加。キャリーバッグを引きながら歩くには通りすがる人々が多すぎるなあ。満員電車も遠慮してしまって1回電車を見逃してしまった。

今夜は旅するトークが終わったら、急いで実家に帰らなくてはいけなかったので、大荷物になってしまった。でもキャリーバッグを引いているせいかいつもよりも旅している感じが強い。

電車に乗り込み、バッグからがさごそとイヤホンを取り出して、スマホに差し込む。そして音楽を流そうとプレイリストから曲を探っているとき、駅の名前を告げるアナウンスが耳に入ってきて、ふと動きを止めた。いつもは使わない路線での移動は、知らない駅名もあれば有名な駅名もある。イヤホンで音楽を聴くなんて旅にふさわしくないじゃないか、と感じ、イヤホンを耳から外した。その駅ごとに、電車を到着を知らせる音楽も、降りる人の様子も、入ってくる人の数も、全然違う。

六本木に着くまでにいろんな駅を通った。降りたことがない駅がまだまだたくさんあるなあ。

■大人な雰囲気に圧倒されつつも

今回旅のトークをしてくださるのは、1919年創業の老舗、漆塗専門店「山田平安堂」の4代目・山田健太さん。ホストの和田野さんと山田さんは学生時代の先輩後輩の関係にあたり、今回の旅するトーク開催につながった。

そして今回の会場は、六本木の「He&Bar」(Heiando Bar)。小さなドアをカランコロンと開けてすぐ、びっくり。テーブル、お店の壁、全てが真っ赤な漆で覆われていたのだ。

実は今回の旅するトーク、応募が殺到し2回目の開催が決定していた(なんと3回目もこの後決まることに)。このお店がいかに普段から人気であるかが良くわかる。参加者の中にも、「1年以上待ってでも行きたいと思っていた」と話す方もいるほど。このように、常日頃からファンの多い素敵なお店で、今日は実際にこのお店を手掛けた方のお話が聞けるというのだから、とても豪華な旅のコンテンツである。なんだかわくわくしてきた。

それにしても、上京して3年、まだお酒を飲める年齢になって間もないこの私が六本木のバーにいるなんて、誰が想像していただろう。

まず山田さんの話を聴く前に驚いたことが1つ。それは参加者の皆さんがバーテンダーの方にオーダーする際、メニューも見ずにお酒の種類を伝えていたことだ。そういえば私、本物のバーテンダーさんも初めて見た。大人になるとメニューも見ずにお酒を頼むことが出来るようになるのだろうか。初めての光景ばかりで受け入れられないことばかり。さっきから私の目はずっと真ん丸なままだ。

バーはカウンター席だから、一人物思いにふけることもできるし、隣にいた人にこそっと話すこともできる。1人の時間も、また人との会話や距離の絶妙な間、なんていうのも大切にできる空間。これがきっと「大人」ということなんだろう…。

■漆の魅力を感じてほしい

私たちの身近なものにどのくらい漆が使われているだろう。私も考えてみたが、お味噌汁の茶碗、くらいしかでてこなかった。

実は全くその通りで、漆や漆器の古き伝統や美しさは、現代では身近な印象に捉えられることは少なく、高級で特別な時に使用されるもの、としてある程度イメージが固定化されてしまったという。「自宅でもてなす」ということもすっかり減ってしまった今では、漆を使う機会も、漆を見る機会さえなくなってしまった。そんな今だからこそ、小さい作品ではなくもっと空間を使って、お客様に漆の良さを体感してもらいたいとして作られたのがこのお店。

トークを始める前に参加してくれた人に山田さんが自社のパンフレッドを配布。分厚くてしっかりとした、教科書のようなパンフレッドを見ながら、カウンター越しの山田さんの話を聴く参加者の方たちのその様子は、まるで漆の授業を受けているかのようだ。

漆の歴史や、日本と他の国での漆の用途の違いなど、山田さんに詳しく「漆レクチャー」をしていただいて、参加者の皆さんも私も、すっかり漆マスター。知識を得てから再び店内の真っ赤なテーブルや壁を見渡すと、このお店の魅力に一層惹き込まれてしまって、まるで異世界に来たかのようだ。

■漆を贈るということ

山田平安堂さんの商品は、食器のみならず万年筆やフォトスタンドなど、その商品のジャンルは広くにわたる。今回もおもてなしの料理に使用されたお皿を始め、デザインを手がけた腕時計など、多くの作品を実際に見ることが出来た。山田さんの前で見る商品の数々は、熱い思いが感じられて、より輝いて見えた。

漆の存在が身近なものではなくなってしまったのかもしれないが、だからこそ大切な人に心を込めて贈るモノとして「漆」を選択するというのは、贈られる側にとっても非常に喜ばれるものだと思う。私も今度、誰かに漆の贈り物をしてみようかな。

■漆と共に生きる

最後に、これから挑戦したいことを話してくださった山田さん。小さい時から漆と常に触れ合ってきた山田さんだからこそ、漆へのこだわりと思いは強い。

そしてそんな山田さんの思いをこの旅で共有できたことは、美しい漆の文化そのものを守ることにもつながる。小さい街の一角で行われている旅するトークには、出会った人々と心を共有することで生まれる新しい何かが、大きなものに結びつく、そんな美しい力を秘めているのかもしれない。

■私と六本木と

帰りは、ミストのような優しい雨が降っていた。六本木のキラキラしたビルに照らされて、夜の霧雨はとても輝いて見えた。

今夜私は夜行バスに乗って東京をちょっとだけ離れる。旅するトークに出会うまでは、東京を離れる時も帰ってくるときも、東京という街は私に無関心のように思えていた。だけど今は、「いってらっしゃい」と私に手を振ってくれているような気がする。それは私とこの街を紡いでくれる人たちに出会えているからなのかもしれない。今日帰ったら、お母さんにたくさん今日のことを話そう、私はそう決めた。

早川遥菜


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