AETE あの人がいるから旅したくなる。アエテ

編集・ライター
小嶋 野乃香

見たもの、感じたもの、 すべてを自分の「言葉」で彩る人に。 カレーのためなら全国どこへでも行きます。 あと、カメラも好き。

2020.02.04

一人ひとりの気持ちや心の奥底の痛みに寄り添う料理の力:表参道

和えて special

いつも緊張してしまう、煌びやかな街に降りて

 

表参道駅から、ぶつかってしまいそう、と不安になる歩道と華やかな通りをくぐりぬけて、閑静な住宅地に向かう。この前に、大学の授業で使う資料を探すために永田町の国会国立図書館に居た私は、半蔵門線に乗って一駅で表参道駅に着いた。メトロに乗っていると、たった一駅なのにこんなに景色が変わってしまうことにいつも驚かされる。表参道というと、無機質で敷居が高いような気がして、この駅で降りるには少しの勇気と緊張が伴う。いつか、青学の友達とランチするために表参道で降りたときも同じ気持ちだったような。私は、なんだかこのキラキラした街と通り過ぎる人に押しつぶされそうになりながら、夏のはじまりの心地よい暑さの中を少しだけ走って向かった。

はじめまして。今回、初めてレポートを書く小嶋野乃香といいます。都内の大学で現在3年生です。普段から、自前の一眼レフで写真を撮ることが多いので、今回も私の相棒カメラと一緒に参加しました。少し自己紹介をしますと、かなりの自由人で、自分の直感に従って計画性なく生きている女子大生です。

表参道のマンションの一室が今回の旅の会場である、料理教室「パリ15区」になっている。チャイムを押すと迎えてくれたのは、今回のホストである森由美子さん。旅するトーク初参加であたふたしているわたしに、「ののかちゃん、よろしくね~」と声をかけてくださって気づいたときには当初の緊張感は由美子さんの気さくな雰囲気によってなくなっていた。実はそのときから由美子さんは、何か人を和ませる不思議な力もあるのではないか?と疑っていたが(笑)旅のゲストたちの和やかな雰囲気から、その疑問は、確信に変わった。

少し早く着いたので、今まさに準備されている料理に出会い、お腹を空かせてきた甲斐があった、と心の中でガッツポーズ。そうこうしているうちに、会場に続々とゲスト集まってきた。

今回はトークセッション形式で、由美子さんとAND STORYの細川さんが、私たちを物語の旅へいざなう。

女性として手に職をつけ、働き続けたい。そのために、日本から出て学ぶことを決意

今回のホストである森由美子さんは、現在表参道にある「パリ15区 料理教室&サロン」を主宰している。そんな由美子さんは、学生時代からかなり行動力のある方だったそうだ。女性は30歳まで働けばもういいだろう、と言われていた時代に、ずっと働き続けたい、何か手に職をつけたいと思い、フランス料理を学ぶことを決意。大学卒業後に改めて勉強し直すことを決める。周りが就活をしている中で不安がなかったのか?という問いに、「不安はありませんでした、だってやり直せばいいじゃないですか。若いですし」と迷いなく話す由美子さんの姿が今でも忘れられない。ちょうど就活という圧に悩んでいた私だったが、「やり直せる」という言葉に、少し肩の荷が下りたような気がした。
必死に母親を説得し、運と出会いに恵まれた由美子さんは単身ヨーロッパに渡り、ロンドンで1年、パリで2年、そして名門コルドンブルーに通うこととなる。


帰国、一人ひとりに寄り添う料理教室をパリに似たここ、青山で。

帰国して、29歳から4年間は昭島のビストロを経営し、自ら料理人としてキッチンに立った。しかし、あるときから一人ひとりのお客さんに寄り添えてないことに気が付いた。自分の料理は、誰かにとってとても思い出に残るものかもしれないのに、時間に追われての仕事はそんな想いに応えることができていない。自分には合っていないということを痛感したという。その後、一人暮らしの自宅で週末だけレッスンをする生活に。しかしパリに赴いた際、表参道の魅力に気づかされ、表参道で物件を見つけ「パリ15区」を開くことに。

待望の料理とインスタ映え講座

話を聞いているうちに、お料理が出来上がった。待ってました!参加者の皆さん、そういう顔をしていたのを私は見逃しませんでしたよ…。

料理の1品目は、サラダ。サラダの中に入っている蕗に味がしっかり染みていて、ドレッシングとよく合う。と、突然はるさんが「私、写真撮るのが本当に苦手なんですよね」と(笑)。どうやらインスタ映えができないとのことで、参加女子たちで撮影レクチャーが始まった。


2品目は、季節の前菜。野菜がたっぷりのジャガイモのグラタンのような。前菜の時点でご飯が欲しくなってしまった。3品目は、チキンのオーブン焼きヘルシー仕立て、そして4品目は、畑で取れたレモンを使用した、レモンライス。このレモンライスが私の中ではナンバーワンにおいしくて。お塩とオリーブオイルをかけるとさらにさっぱりして夏にはピッタリ。

デザートには、ローズデザート。バラには、自律神経を整える力があるという。由美子さんの料理は、親しみやすいフランス料理。使っている野菜は由美子さんが持つ小田原市江之浦にある自然農畑で育てられたものもある。そして、最後にはレモンがのったハーブティ。


無計画でここまで来た。好きなことをやってきた。でもたくさんの出会いに支えられた

由美子さんは、何か聞かれるたびに、「いや、本当に無計画ですよ」と返す。少し大胆すぎるくらいのおおらかさ。しかし、このおおらかさの虜になった人は私だけじゃなさそうだ。アシスタントのお二人が、「ここに来るといつも落ち着くんです。違う空間にいるみたいで。」「先生の人柄に惹かれて時間を共有するようになった。」とおっしゃっていたのを聞いて、改めて由美子さんの人間性の強さを感じた。冒頭で、由美子さんは行動力があると私は書いた。しかし、それだけではない。留学中、帰国後にたくさんの人と出会い、ここまで来たことで、一人ひとりの気持ちや心の奥底の痛みに寄り添えるようになったのだと思う。その痛みを和らげる包容力をも由美子さんは持っている。ゲスト一人ひとりに向ける眼差しがとにかく温かいのだ。特に驚いたのはそんなシェルターのような、逃げ出したくなったら帰って来られるような温かいものがここ表参道の小さな一角に、確かに存在しているということだった。
それは、煌びやかなこの街で緊張してしまう私にとって、大きな発見だった。

最後に、由美子さんは言う。周りから反対されたが好きなことを続けてきた。しかしたくさんの出会いに支えられ、その出会いからいろいろなことを学ぶことができた。旅するトークの本質がそこにあるような気がする。どの出会いがどのチャンスに結びつくかは分からない。もしかしたら私も誰かを癒し、励ますことができるかもしれない。私も今日の出会い、これからの出会いを無駄にしたくない、もっと広げたいと思った。由美子さんが、これからも誰かのシェルターになり続け、無性に安心してしまう存在であり続けることは間違いないだろう。今日の参加者の方々の眼差しにもそんな由美子さんが映ったはずだ。

会が終わったあと、名残惜しくて、なんだかまた来たい、また由美子さんに会いたいと思ってしまった。やはり、私も母親のような心の広さの虜になってしまったようだ。

小嶋野乃香


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