AETE あの人がいるから旅したくなる。アエテ

22年度編集長
中村 斐翠

真っすぐな人のきらきらした目が好きです。 正しいときに、正しい重さの言葉を選べるようになりたい。

2022.09.14

ーNewMake × Kumiー「ものづくり」を介し繋ぎ続けたストーリーー

和えて special

ー服飾を学んだのち、縫製の仕事に進んだ Kumi さん。社会人になってからはどんな経験をされてきたのですか?

いろいろな経験をしました。縫製はもちろんのこと、Web デザインやカタログ、DM、名刺のデザインを担当したり、カメラを持ってお店のオーナーさんから直接お話を伺うラ イターのようなことをしたりもしていましたね。
いろいろな業種、様々な立ち位置の方と関わって、たくさんのことを吸収させてもらうことが楽しかったんです。自分のブランドもやっていたのですが、その展示会でもブランドのアピールより人と話すことが目的になっていました。

―確かに、Kumi さんはひとことで「何をしている人」と言い表せないくらい様々なことをしていらっしゃる印象です。

他の方から見たらそうかもしれませんが、自分が決めた枠組みの中で行動してきただけで、全ての経験が今の自分に繋がっているんです。

例えば、 ITの仕事に携わるようになってから習得したデータのスキルは今の刺繍機の仕事に結びついています。
誰かに何かの魅力を伝えるデザインをするには、目的によってデータを使い分け、正しく扱う必要があります。そのスキルを身に着けようと、スクールに通ったり、熟練した先輩たちに話を聞きに行ったりしていました。
そうやって習得したデータのスキルを生かしてWeb ページや販促に関わる紙媒体のデザインをやるうちに、デザインデータの利便性や汎用性に関心が行くようになったんです。イメージを可視化するために必要なツールとしてのデータをうまく扱えれば、可視化する手段、つまりアウトプットするかたちの幅が広がります。その表現方法の多様さに、面白さと可能性を感じていました。

今、刺繍機で使用するデザインデータの仕事も少しずつしていますが、機械による刺繍もデータによる表現手段の一つなんですよね。ITの仕事などを通して習得してきたデザインやデータについてのスキルや、過去の経験で得た生地と芯の相性に対する知見が生かされているなと手ごたえを感じています。

こんなふうに、過去の学びや経験が回りまわって今に生きてくるという体験を何度もしてきたんです。だから、変化に適応すること、積極的に新たなものに触れ柔軟に吸収していこうというのは今も心がけていますね。「学ぶ」ことは一生やめないつもりです。

ー新しい環境に飛び込んでいくことって、簡単なようでいて勇気も体力も要ることだと思います。Kumiさんにとってなにか原動力となるものがあるのでしょうか。

女性の強さに抱く憧れです。
小学生の頃、女性の柔らかくも底知れぬ強さに触れる衝撃的な出来事を経験をしました。
大切な友人の一人が大怪我を負ってしまい、指を失いました。それでも彼女は気にせず、屈託なく笑いながら私の名前を呼び肩を組む、太陽みたいな子でした。
彼女とはよく一緒に何かを作っていたのですが、今でもその時のことは鮮明に覚えています。そんな彼女の強さに触れたとき、「私も強くなりたい」「女性の強さってどういうことかな」と思うようになったんです。

あくまでも私が思う女性の強さですが、「芯はあるけれど我を通さず、広い視野と思考の深さ、柔軟さがあること」だと解釈しています。
私にとっての芯は「周囲の環境に適応はしても依存はせず、自分の力で食べていく術(すべ) を身に着けること」。だから、そこからぶれなければ臆せず新たな環境に飛び込んでいけるのだと思います。 そんな環境で得られる刺激や学びを大切にしているので、お金はしっかり稼ぎつつ、自分の価値観、経験、過去の蓄積にこだわりすぎない身軽な自分でありたいですね。それが私の憧れる「強さ」のかたちです。そんなふうにして、完全にフリーランスとして独立するのが今の目標です。

■NewMake Laboは「出逢いの交差点」。

―Kumi さんが NewMake Labo に来てくださったきっかけは何だったのでしょうか。

出逢ってくれた方の生き方、考え方を知ろうと思ったのがきっかけです。もともと、「人の話を聴く」のも好きだったというのもあるかもしれないですね。

働きながら眠れない勤務形態の時もあったので、身体を壊してしまったんです。働き方を見直そうと以前から考えていたのもあり、視野を広げるためにさまざまな仕事をしている人たちの話を聴きに行っていました。
そんな時に出逢ったのが、NewMake Laboだったんです。人が集まる場所と聞いて、きっ と新しい出逢いや発見があると思ったんですよね。人と関わりながら、今までの自分より更に発想力や応用力、展開力を身につけられたらいいなという期待とともにLabo を訪れました。

ーそうだったんですね。では、実際にLabo に来てみてどうでしたか?

想像以上に交流の場だと感じました。世代、性別を超えていろいろな人と交われることが本当に嬉しく、楽しいなと思います。
先の働き方の点ももちろんだけれど、学生さんたちの話を聴きながら、若い頃、悩んだり戸惑ったりした時期を思い出し、懐かしい気持ちになったり。服飾に関わる方たちの話を聴いて自分の知らなかった分野や新しい技術を知り、未来を想像しワクワクしたり。この歳になっても新たな刺激を受けられるって本当に貴重なことだと思っています。

「アップサイクル」による新しい価値を創造する時代の空気感を感じつつ、制作するLabo としてだけではなく、人の想いや考えが交錯する「出逢いの交差点」ような場だと感じるんです。いつも笑顔で元気いっぱいのスタッフさん、企画に携わる方々にありがたいなと思っています。

ーありがとうございます。「出逢いの交差点」、素敵な表現です。

Labo での出逢いは、「ものづくり」という共通項を持つだけの普段は交わらないような人々の出逢い。 だからこそ生まれる新しい刺激や共感や共鳴の瞬間がすごく好きですね。

それから、Labo にはミシンや糸がありますよね。ミシンを使ったり、糸で繕ったり、手を動かしながら、「ああしたい、こうしたい」「こうしたらどうか」と自然と会話が生まれるんです。“アイディアの宝庫”ですね。
Labo に集まる人々は、きっとイメージを可視化する喜び、そして、苦しみも知っている人々。そんな人たちの、ものづくりを間に挟んで目が輝いていくようす、真剣に試行錯誤するようすを見ると「あぁ、こういう人の表情を観るの好きなんだ」と改めて感じるんです。自分が何を観て魅力を感じているのか再確認と客観視ができること、そんな人たちと交われることが素敵なことだと感じています。

■和を取り入れた adidas NewMake。

ーKumiさんは、NewMaker さんたちの中でも一二を争うほどたくさんの作品を制作してくださっています。そんな Kumi さんにとって、お気に入りの作品はどれですか?

NewMake×adidas のシャツです。

「和のテイストをうまく取り込んだデザインをやりたい」という想いがずっとありました。

個人的に、服に限らず“何かと何かを組み合わせるセンスのよさ”に日本人らしさを感じているんです。派手になりすぎず、バランス良く複数のテイストを混合するのが上手な民族だ思っていて、そんな“日本人らしさ”を服に落とし込むことが夢でした。
だから今回の作品では、和を前面に押し出すのではなく、カジュアルな要素とこなれ感を組み合わせてみたんです。 自分が思う“日本人らしさ”をうまく表現することができたと手応えを感じています。

ー具体的にはどのように服に落とし込んだのでしょうか?

adidas という誰もが知るスポーツブランドを提供して頂いたので、シンプルな T シャツをセレクトしました。
スポーツウェアのカジュアルな T シャツの素材に抜け襟や帯のようなデザインを合わせ、着物らしさを表現しています。抜け襟自体も、着物用の身体にぴったり寄り添った形ではなく、少しカジュアルダウンさせた形にしました。

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