想いが集まるほど、江別の水辺にワクワクが反映されるだろう。
■知ってる江別じゃない
私にとっての江別のイメージは、ひいおばあちゃんの家がある町。だからおしゃれなイメージはなかった。
だけどそんなイメージとは裏腹に、到着した会場は絵本の中の世界みたいだった。真っ青な空に、お店のテントやガーランドがパタパタと風に揺られて、石造りの建物の前にある草原にはチェロとピアノの演奏をのんびり聴いている人たちがいた。川岸では少しずつ秋色になってきている植物が風に揺れていて、それを見ながらのんびりスープを飲む人たちは、どこまでも幸せそうだった。
そんな江別が、今回の旅するトークの会場である。このまちで、『3EBETSU』として、江別蔦屋書店、江別神社、千歳川市街築堤の3か所で一斉にイベントが開催され、緑道の中に飲食店が集まっていたり、新鮮な野菜が売られていたり、外遊びテラスがあったり、神社でラグビーのパブリックビューイングが行われたりと、これでもかってぐらい楽しいことが盛りだくさん。
そんなイベントのひとつ「ミズベリング江別~ミズベのロングマーケット」で、はじめての場所だと思えないぐらいあったかくて、参加したみんなが楽しい未来を想像し、ワクワクしてしまうような旅するトークが開かれた。
絵本のような素敵な空間にこの会場を作り変えたのは、今回のホストである林さんとたまみさん。
林さんの方はどうやらさっきから会場内を忙しそうに走り回っているスポーツマンらしき方で、一方のたまみさんは会場の中で美味しいスープをせっせと売っていてなかなか声をかけられない。
会場には渋谷区長さんや筑波大学の先生がいらっしゃって、「なぜ江別に?!」と思ったら、どうやら林さんの職場のボス、そして大学時代の恩師の方とのこと。
まだ旅するトークは始まっていないのに、集まった方たちの話が面白すぎる。
実は林さん、今回の空間づくりに加え、いろんな人の頭の中を絵で描いたり、打ち合わせなんかも絵で描いてまとめるライブドローイングもする方らしく、今日はトークだけではなくて、その場で絵を描いてくれるらしい。
こんなに素敵な空間を作り、面白い人を惹きつける林さんは、どんなお話しをして、どんな絵を描くんだろう。
さっきまでチェロやピアノが演奏されていた草原には大きな白い模造紙がセットされて、最初会場に着いたときの穏やかな気持ちの中に、ドキドキが混ざって、いよいよ旅するトークが始まった。
■そこにある空間を生かした場づくり
林さんは、今回の江別市内の3か所で行われるプロジェクトを担当した方。
江別出身なのかと思っていたら出身は大阪で、大学時代は建築を専攻し、今も都市計画や場づくりに関わる仕事をしているという。
そんな林さんと江別の出会いは、今から5,6年前のこと。江別には、札幌にはない空間がある、ここをみんなで面白くしたいという気持ちから、イベントスペースとしても利用できるゲストハウスを作った。
現在は、より街を楽しみたい人や街を好きになる人が増えればという想いのもと、人が交流する場づくりをしている。
札幌に比べると江別は小さい街だ。だから、いろんな人の顔が見えて、何かやりたい人同士がつながりやすいことが、札幌とは違う、江別の良いところだ。
たしかに、このイベントには面白いことをしている方が驚くほど集まっていたし、私自身もたくさんの方とお話しさせていただいて、人がどんどん繋がっていくのを体感した。
顔が見える規模感もそうだし、繋がる場所があって、その繋がる場をつくってくれる人がいることで、人が集まり、そこからまた面白い事が生まれていくんだろう。林さんたちが作った場でまた人が集まって、いろんな可能性を持った面白い計画が今日から始まっていて、すごくワクワクした。
でも、林さんが江別にいるのはひと月の半分ぐらい。もう半分は、渋谷区で働いている。
だから渋谷区長さんがいらっしゃったのか。
渋谷区でもやはり林さんは空間を生かした場づくりに携わっていて、パブリックスペースをもっと面白く使える仕組みを民間企業の力も使って作っていこうと力を注いでいるそう。
そんな、人が密集する都会の渋谷区と、ちょっぴり田舎で穏やかな江別市という真逆の空間の両方で、各々の空間を生かし、人が集まる面白い場を作り出してきた林さんが、この日の会場である江別の川岸に江別だからこそできる、川のあるまちのライフスタイルを提案しようと活動している。
この活動の主体となっているのが「ミズベリング江別」だ。
■ミズベリングとは?
ミズベリングとは?
そんなわたしたちの疑問に、「説明するより、やってみましょう。」ということで、林さんがついに模造紙の前へ。
そして、近くにいた子どもに「水辺で何がしたいですか?」と質問した。
「川遊び!」を皮切りに、「お花見」「カヌー」「BBQ」「本を読みたい」「何も考えずにビールを飲みたい」「ピアノを弾きたい」「お昼寝」とか、どんどんみんながやりたいことを口に出していく。そんなみんなの答えに林さんはいいねいいねと言いながら、大きな模造紙にペンを走らせる。
そうやって林さんとみんなの力で模造紙の上に楽しそうな水辺ができていった。
こういうイベントって、みんな照れてあまり答えなかったり、当てられないように下を向いちゃったり、似たような回答をしたりすることが多いと思ってたけど、みんなびっくりするぐらい楽しそうに自分のやりたいことを口に出していた。気づいたら草原の上の方にもたくさん人が集まって、興味津々でじっくり絵を眺めたり、ちっちゃい声で描いてほしいものを林さんに言って、それをいいねいいねって言いながら描いてくれる林さんの横で嬉しそうにしていたりする。
中には、「サウナ」「よもぎ蒸し」「将棋」なんて、絵も難しいし、水辺に描けるの?って思うような要望もあったのに、林さんはしっかり描いて、しかもそれが絵の中で馴染んじゃうからすごい。
楽しくって、居心地が良くて、みんなが参加者になれた15分。あっという間にみんなの「やりたい!」が集まった水辺の絵が完成した。
「どこにでもある水辺ではなくて、外からも人が集まってくるし、まちの人もちゃんと楽しめる、ここだけのアクティビティが広がるような、みんなが思い描く水辺になったらすごくいいなと思って描きました。」と、林さんはみんなの意見を漏らさず描きながらも、それをそれぞれの良さを生かしながら空間としてリアルな形にまとめあげた。
■まちづくり×自分
自分の発言が絵として形になること、それが水辺を賑わせる絵の一つの要素になっていることはなんだかうれしい。
どんな絵ができていくのかただ見て待つのではなくて、自分たちの発言で絵が作られていくのを見るということが、こんなに楽しく、たくさんの人を惹きつけるのは、みんながこの絵を作った当事者になれるからだと思う。
このように「ミズベリング」とは、水辺の新しい活用の可能性を創造し、新たな賑わいを生み出すために、市民や企業、行政が連携して取り組んでいるプロジェクトだ。
この日、参加者はみんな、林さんの絵を介して、気づけば当事者として江別の水辺の未来について思いを共有し、「ミズベリング・プロジェクト」に参加していた。
少しずつ変わってきてはいるけれど、やっぱりまちづくりにおいて市民は、行政が主導で作った空間を提供されるということが多い。
つまり、あまり当事者としてまちづくりに関わることがない。
この日みんなのアイディアが集まってできた絵みたいに、まちづくりだって、「言ってもしょうがないからなぁ」と諦めることばかりのものよりも、みんなの「こうなったらいいな」が、反映されていくもののほうが、面白そうだし、何よりきっと、関わった人は今までよりもっと、そのまちでの暮らしが好きになる。
すべての人のためにあることと、それぞれの意見を拾い上げること、どうしてか両立が難しく思えてしまうこの問題も、そのまちに暮らす人や企業、そしてここで出会ったとんでもなく面白い人たちと一緒に自分ごととして取り組んでいけば解決できて、もっともっと面白くて、居心地が良い空間をつくることができるかもしれない。
そうやって、私の関わるまちでも、あーこのまち好きだなぁと思える人を増やせたらいいな。
■soupに行こう
最後に、この日できた絵はまだ完成じゃない。
しばらくは、たまみさんのお店soupの2階に置かれる。
絵は、飾っておくだけじゃなくて、自分がやりたいことを書き加えてもいいし、絵で描くのが難しかったら文字で書いておいてもいい。
文字で書いたものは、林さんが絵に描き替えてくれるそう。
文字で羅列するよりも、絵になるとわかりやすい。
だから想いが伝わりやすい。
林さんは、絵にすることで、やりたい!をわかりやすくして、共感を得ていくことで、もっとまちを良くしようという機運を高めようとしている。
そして月に1回は中間発表をして、3月にはひとつ、このまちの未来像みたいなものを提言できたらいいなぁという。
どうして江別にはこんなに面白い人が集まるのか、最初は江別のイメージがあまりにも違っていて飲み込みきれなかった。
もしかしたら別の街でまちづくりに携わる身として、同じぐらいのライバルだと思っていた江別にこんなに素敵な場ができていることへの、焦りもあったのかもしれない。
でも、イベントを終えてみて、少しわかった気がする。
今度はsoupに、あの絵を見ながら江別の未来を想像してワクワクする人が集まって、たまみさんのスープを飲みながら、また想いを結集して面白い事を生み出す場ができるんだろう。
そして、みんなの想いが集まるほどに、この絵が絵空事ではなくなって、江別の水辺に反映される日が、思っているよりも近いうちに来るんだろう。
白水 美里
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