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編集・ライター
佐々木 梨緒

知らない場所を探したり、人に話しかけてみたり。 実は人見知りだけど、もっともっと沢山の人に出会って、 色んな文化や物語に触れたいから、 目指せ人見知り克服。

2020.02.11

金坂由美さんの『高円寺リサイクル着物店めぐり体験』

会えて report

▪桃ととうもろこし、花屋のお姉さん

高円寺駅はたぶん、初めて訪れる町だった。母に「コロッケ買ってきてね」と冗談半分にお使いを頼まれるような小さい商店街を想像していた私にとっては、電車を降りて駅のホームから望んだ高円寺の街の想像以上の広さと、活気にあふれた駅前の光景が、おどろきとともに目に焼き付いた。人がたくさんいる。自転車が多く行き交っている。そんな人でごった返す駅前には、桃ととうもろこしが行儀よく並び売りに出されていた。

おじさんが元気よく集客して、行き交う人がそれをのぞき込む。花やのお姉さんが、もくもくと花を切ってゆく。

暇つぶしに入った某ファストフード店のスマイルも心なしかテンションが高い。都会の威圧感をするりと抜き取った、穏やかな存在感を放つ町だ、と思った。商店街のゲートは、なぜか古さを感じさせない。うわぁ、なんてすごいのだ、この街は。

 

▪追いつく!

14:00を回った。ありゃ、とメッセージを確認すると、どうやらホストの方とすれ違ってしまったみたいだ。そういえば、それらしい着物姿のご婦人と洋装の女性がすっと通り過ぎて行ったような気がする。わたしは今日のホスト、金坂由美さんに教えていただいた店へといそいだ。

土曜日の商店街となると高円寺には人がたくさん溢れかえっていた。新しくお店が作られる内装工事も人混みの流れのすぐそばで行われていて、新しい何かを受け入れてもらえそうなこの街に、なんだかわくわくした。人の間を縫って、縫って、あっ、ようやく二人の姿を見つけた。すごく楽しそうにお喋りをしている。その光景がなんとも素敵で心が落ち着いた。わたしは商店街を見渡しながら歩いて行った。

▪きものの新世界を見る

ふたりに声をかけ、たがいに自己紹介してから、一軒目の「豆ぶどう」におじゃますることに。

靴をぬいで、畳に上がる。入ってすぐ左側と真ん中には着物がかけられていて、右には豪華な帯、そして奥にはハリーポッターの杖の箱みたいに所狭しと帯がしまわれていた。店の奥の端には、店主の女性が机に向かって腰かけていて、机上には電卓と、書類と、雑貨がそれぞれ置かれている。彼女一人で切り盛りしているのだろうか。芯がしっかりとしている、強くて優しい女性だった。

今回のゲストは私の他に一人。Sさんと記しておくけれど、その方はわりと着物に詳しい方だったから、わたしばかりが初学者である。丈や行、単衣と袷などといった言葉から、帯と着物の合わせ方、材質によるメリットとデメリットなど、易しい知識からタメになる知恵まで、ゲストの方とホストの方と店主の方の三人を師匠に、いろいろ教わることができた。

前のお客さんが羽織らせてもらっていたから、わたしも一枚羽織らせてもらった。きちんと腰ひもも二本結んでもらうと、どういうふうに着物の柄が映えるのかがよくわかる。ちなみにわたしは夏着物ですてきなものを一枚みつけた。クリーム色に、絵巻物のような水墨画が描かれた優美なものである。すると、お店の方が、赤い半帯をえらんで、あわせてくださった。そうすると、着物の秘めていた美しさが、ぱっと花が開いたように表れた。組み合わせの妙とはこういうものなのか、とおもいがけず感動した。

▪ひとやすみ、着物談義

沢山着物と触れ合った後は路地を歩いてカフェ「トリアノン洋菓子店」で一休み。そこでは「年齢に合わないといわれるけれどどうしても気に入っている着物」についてや、雨の日対策、汗対策や、着物を着るための理想の体型と体型修正の仕方・グッズなどについて、話が盛り上がった。それぞれ、ぱかっとはめる雨対策の草履カバーがあること、また、体型修正はしなくてもいい風潮であるという話を聞いて、着物を着ることにたいする不安が和らいだ。参加者のSさんも、着物を身近に感じる話を聴けたことで胸をなでおろしたようにみえた。

ケーキをいただいたあとは、話に上がった草履カバーを売っている店に立ち寄った。

▪いつまでも歩きたい

高円寺の街を歩いていて感じたのは、とにかく楽しくてしょうがないということだった。高円寺はランチ、居酒屋、カラオケやチェーン店、夜のお店までなんでもそろっている。坂も小路もいろんな道を歩いた今日は、相応に疲れたけれど、見るもの全てが知らなかったはずの「高円寺らしさ」を漂わせていて面白かった。

 

これはまさに「旅」なのだ。

 

▪着物に合わせて帯をえらんで

それから二軒目の「ひらり」へ向かった。豆ぶどうもそうだったけれど、このお店も一歩入ると靴をぬいで畳に上がる構造になっている。時間を取って落ち着いて見ることのできる素敵な空間だったけれど、わたしは今日の靴下がすこし破れていたのに気が付いてはずかしくなった。

ここも女性の店主さんが出迎えてくれた。

店主の方が一人で回しているという事情があって、今日は16:00開店。わたしたちは一番のりで店内に入ったけれど、その後人がひっきりなしに訪れて、すぐに店はぎゅうぎゅう。

 

店主の方から、商品は勝手に広げて羽織ってみて良いこと、手ぶらの一日レンタル着物がとってもお安いこと、他にも様々サービスがあることなどの説明を受けると、いよいよ着物を見ることになった。

 

まもなく二組のお客さんが訪れ、狭い店内でみんな夢中になって思い思いに着物を広げた。店主の女性は、どんどん広げて、そのあたりに置いといていい、と言ってくださるおかげで、わたしたちは気兼ねなく探せた。一軒目よりも緊張が解け、ホストとゲストの空気感もかなり和らいでいたので、飛びつくようにして好みの着物を探すのに夢中になった。

店内に三枚ある姿見で、みんな思い思いに自分の体に着物を合わせていく。

またここでも、わたしは好きな柄を見つけた。今度は二枚である。お二方に声をかけつつ鏡で合わせてみると、お二方はそれに合わせて帯を選んでくださった。やっぱり着物を選ぶうえで興趣が尽きないのは、帯合わせの妙であると実感した。写真の紋付き、刺繍で日本画のような絵があしらわれた着物には、穏やかなオレンジ色の帯や龍の描かれた黒い帯を合わせたとき、とびぬけて美しさが映えた。もとが渋い着物なので、黒い帯を合わせた時はなんだかカタギには見えない凄みが出た。それで笑い合い盛り上がる空気感も、今日初めてお会いしたとは思えないほどで嬉しかった。

 

▪高円寺のリサイクル着物店

 

リサイクル店はまず、その安さによる手に取りやすさがほんとうに魅力的だった。素敵だな、と思った着物が思いがけず3000円の値札が付いていたことがあり、びっくりした。金坂さんもそこに注目して、着物への敷居の低いリサイクル店を案内するという企画を立ててくださったのだろう。とりわけ収穫になったのは、水墨画的、絵巻的な流れる繊細な柄がいいなぁと漠然と思っていた私にとっては、いかにもプリントした風の着物や浴衣ではなく、さまざまなアンティーク物の着物に巡り合えたことだった。

ひとしきり商品を手に取って教わったのちに、「また来ます」といって、「ひらり」を出た。高円寺は自宅から近くない。しかし、このセリフが面白くなるくらい近い未来に、また、ここへ来てしまうだろうと思う。

その魅力は一日で知れなかった。底知れぬおもしろさが、この街に、着物に、潜んでいる。ああ。また来たい。そしてその時には、何かとっておきの物を持ち帰りたい。終日降らずに持ちこたえてくれた曇り空の下、わたしはそう思いながら、高円寺駅を発った。

金坂由美さんのストーリーはこちらから
トキメク着物を見つけましょ!着物リサイクル店巡り

文:佐々木梨緒

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