AETE あの人がいるから旅したくなる。アエテ

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編集・ライター
佐々木 梨緒

知らない場所を探したり、人に話しかけてみたり。 実は人見知りだけど、もっともっと沢山の人に出会って、 色んな文化や物語に触れたいから、 目指せ人見知り克服。

2020.02.11

gekichapの『いいね!をもらえる写真には、物語がある』

会えて report

この日の雲は、カフェラテのミルクフォームみたいに明るくどんよりと空に沈んでいた。台風が近いせいだ。わたしと同じインターン生で今回のイベントを企画した舞さんは、雨が降らないようにと祈ったそうだ。イベントの間、雨は降らずにむしろ程よく明るい照明を落としてくれた。

 

持ちこたえた雨は、イベントが終わってから静かに降り出した。

▪俳優たちのフォト・スタジオ

白い壁に錆び付いた白の手すりの西洋風の階段を上ると、さわやかな声の青年たちが迎え入れてくれた。

彼らが今回のイベントの主催である「gekichap」の面々。俳優で構成されたクリエイター集団である彼らは、年に2回ほど大きな写真展を開催するなど、活発に活動している。
今回はメンバーの中から5人が集まり、アドバイスをしてくれ、うち2人が被写体もしてくれた。
待ち合わせのスタジオにはすでに3人の参加者がそろっており、洒落たソファや椅子に腰かけていた。スタジオと言っても、想像するような緑シートと白い壁と大きなカメラというような改まった写真スタジオではなく、木目調の床に塗ったような白壁、洒落た造花や小物が置かれているスタジオだった。落ち着いたハイセンスな音楽が、小さめに響いていた。
私は一人分空いていたソファに腰かけた。ふっくらして、眠たくなるように心が落ち着くソファだった。

▪歩いて切り取り、物語を作ろう

主に二人が、そしてほかのメンバーも適度にコメントしながら、砕けた雰囲気の中、今回のイベントの趣旨が説明された。
今回の体験は、写真を撮りに街を歩き、撮った写真を四枚組み合わせて物語を作るというもの。
イベントタイトルにもある、「いいね!」をもらえる写真、というのは、物語があるからこそ付けられる「いいね」ということ。それはつまり、人から共感されているということ。周りの価値観ばかりを気にする必要はないけれど、人を惹きつける物語づくりをやろうということだそう。

▪気の向く方へレンズを向けて

古い家が並んでいて、どこを見ても俗な情感が匂う。緊張して、私は何を撮ろうか迷ってしまう。

道路をみんなで歩いて行く。ゴールは公園と聞いているけれど、当てもなく散策するような気分だった。
心に留まったあれこれに、みんなレンズを向けていく。注意がそれぞれの方向に向かっている様子が個性の表れに見えて楽しい。だからときどき、人は「撮る人」を撮りたくなるのだろう。

取り壊し中の家屋にははっと惹きつけられる。
工具とコードとチェーンの絡まった風景は錆びも欠けも収めたくなる。

道路沿いの草原に儚さを感じて、道ばたの投げつけられた車に事件を見つける。

風の吹きつける橋からどんよりと重い海を眺め、高架下でストリート風のポートレートを撮って……。

そして公園についた。家族連れや友達同士など、多くの人々がその日の穏やかな時を過ごしていた。高架下の薄暗さがぱっと開けて見えたその情景は、白く薄くきらきらしたフィルターを通したように綺麗だった。

▪困ったらくじを選んで
――また、カメラを向けて。

なにを撮ればいいか分からない時、メンバーの方が写真を渡してくれる。そこに書かれたあみだくじを辿ると、「モノクロに設定して撮影してね」や「秋らしい色を探そう」など、困ったわたしたちが写真を撮るための標になってくれるアドバイスがもらえる。

引いてみると、「シャッタースピードを1115にして」というアドバイスが出てきた。スマホでとっている私にとってちんぷんかんぷんなアドバイス。そんなときは他のあみだくじを辿ればいいし、または、カメラにはシャッタースピードなるものがあるのか、なんて、カメラの世界に興味が湧くきっかけにもなる。カメラへの門がほどよく空いていて、素人でも居心地がいい。

▪ときには物語など忘れて
――その一瞬をカメラに収めよう。

公園についてから、女性モデルが周りに草生した岩の中心に立った。その背に強烈な太陽の光を受けてワンピースを揺らし笑顔を向けるその人に、みんな飛びつくようにカメラを向けた。

モデルの二人がシーソーに乗った。女性がふわりと浮き上がり、楽しそうに笑うのを、夢中になってシャッターを切る。男性が釣り合うように体を移動させて、また、ゆらゆらと動くのも、うまくは撮れなかったけれど楽しかった。

私は家を出る前に思い立って、何となく用意していた文庫本をいつ渡すかどきどきしていた。でも、なんとしてもその本を持つ女性を撮りたい。決心し、お願いをした。

▪本を開いて微笑んで

最近私が好きな、文庫本を女性モデルの方に手渡した。
木々に囲まれた木製のベンチに腰掛けて、にこにこと笑いながら読んでくれるその一瞬の表情の抜けたような自然さを撮り逃さぬように、必死にシャッターを切った。ほかの参加者もカシャカシャと撮る。私の思いつかない角度、位置から撮るメンバーを見て、おどろき、勉強になった。

▪帰路も発見のかずかず

帰路も行きの巻き戻しではない。
違う車が通り、さっきとは違う人同士でしゃべっている。そんな人を、撮ったり、行きには気づかなかったものを撮ったり、自販機で飲み物を買って飲むメンバーを写真に収めたり、みんな、好奇心が尽きない。

▪#4コマ写んぽ
――そして写真に言葉を乗せよう。

帰ってきてすることは、四枚の写真を精選して自分のストーリーに組み立てること。気の赴くままに撮って集まった写真の数々をスマホで眺めて考える。

どのように写真を組み合わせたらわたしらしい素敵な四コマ写真ができるのか?
ストーリー作りは参加者みんなが頭を抱えるほどむずかしかったが、俳優である彼らがストーリーと写真に関する知識とアイデアを凝らしてアドバイスしてくれるのでそれを参考に作ることが出来た。

試行錯誤しつつアドバイスを受けつつスマホに向き合っていると、舞さんがひとつ、物語を披露した。それは、小さい者の目線で語られた、冒険譚だった。

びっくりしたことは、この被写体で、舞さんは石が銭湯に浸かっている姿に、わたしは不安定さを見たということ。
同じ被写体なのに、全く異なるストーリーができたのだ。見ている世界は同じなのに、想起するモノは全く違う。分かっていたことでも、こんなにも自分とは違う景色を目の当たりにしてびっくりした。
この人の物語は、いったいどんな選択から生まれているのだろうということも、気になった。取捨選択してできた完成形だけでなく、一緒に過ごした時間の中で何を撮っていたのだろう。

▪終わっても

三脚はどう選ぶのがいいのかという相談に、メンバーがそれぞれの自分の体験談を話してくれる。カメラと関係ない話題もはさみながら、イベントが終わった後も、ゆるゆると雑談が続いた。
スタジオの窓を開けると隣のビルの屋上が見え、広く空が見えた。雲が今にも雨雲に変わりそうな、どんよりとした空気だった。

窓の外を覗くと暗い空が広がるけれど、このスタジオ、私たちが居る場所は明るい声が飛び交い、笑い声のときたま混じるようすが、私の目にはオレンジ色の光で印象に残った。

▪駅でさよなら、新宿でさよなら

駅まで三人で歩いた。
駅でもう一人の参加者とも再会して、改めて別れの挨拶をした。
電車の中、新宿駅の乗り換えの移動でも、一人の参加者と話していた。
雑踏、帰宅ラッシュ。カメラで切り取ったらどうなるだろう。
この混雑も、カメラで切り取れる素敵な被写体。

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