AETE あの人がいるから旅したくなる。アエテ

19年度編集長
早川 遥菜

ハンバーグが大好きと公言していますが、 「母の作る」ハンバーグが大好きなのです。 気持ちに素直な人であり続けるために、 今日も沢山の物語に出会います。

2018.07.24

日々を一生懸命頑張る人と頑張る人を心から支えようとする人がいる街、新橋

和えて special

■サラリーマンの街、新橋で迷子になる

 

私にとって二回目の旅するトーク。今回は「新橋」。

新橋は、電車の乗り換えに使ったことがある程度。あまり新橋メインで来ることはなかったし、なんといっても今回の旅するトークは「はしご酒」。わたしのような子ども(成人していますが…)が、はしご酒の旅なんてしていいのか!と多少疑問に思いながらも、実は内心とてもワクワクしていた。

ただ、ワクワクしていたわたしの気持ちとは裏腹に、なかなか終わらない授業。私への嫌がらせなのかなあ、と思ってしまうくらい、今日だけ異様に長い。

わたしは大学生なので、今はちょうどテスト期間の真っ最中。今日は授業終わりに学校からそのまま直行する予定でいたから、私は先生の話がひと段落着いたところで急いで教室を出て、そのまま東西線に乗り込んだ。

電車に乗り込んで今日の集合場所を確認しようとしたら、あれっ、地図が開けない。慌ててスマホの日付を確認する。あちゃー、忘れてた。わたしにとって一番つらい、通信制限の時期だったんだ。

知らない街で、地図は使えなくて、まもなく時間は約束していた集合時間になる。こんなにも自分を焦らせる状況になると、どうやら逆に涙の一粒も出なくなるようだ。

新橋に到着して、流れる汗を止めることなく私は走り出した。使えないスマホを握りしめて、あっちへいったりこっちへいったり。焦りすぎて、わたしは地下鉄の構内にいる交通整理のおじさんに出口を聞いただけでなく、外でキャッチをしていた居酒屋のお兄さんにまで話しかけていた。わざわざお兄さんは自分のスマホで道を案内してくれたのだけど、今思い起こせば、変な話だ。

キャッチの人に自分から声をかけて別の場所に案内してもらうなんて、私以外にいるのだろうか。それはともかく、なんとか旅するトークにたどり着くと、私はいつもこうして優しい人たちに恵まれていることに気付かされる。

■イメージにはないおしゃれな新橋を発見

はしご酒最初のお店は「Bistroミヤマス」さん。予約が取れないほどの人気店らしく、中はとってもおしゃれで、サラリーマンの聖地新橋、というイメージとはかけ離れていてびっくりした。スパークリングワインで乾杯。なんと大人なことをしているのだろう、母に怒られるかもしれない。私は緊張しながらも、おしゃれに盛られた自家製のハムとソーセージを取り皿によそった。

今回のホストは、今年で88年目を迎えるという「かんべ土地建物株式会社」の社長、神戸さん。新橋の数多くの不動産を扱う、新橋という街を彩っている方の一人。すごい方なはずなのに、とても気さくでステキな方。

ここで毎回恒例の、質問「どこからきましたか」タイム。何と今回参加された人の中に、ベルギーのブリュッセルから来られた人がいた。帰省しているこの時期を使って参加してくださったのだそうだ。

はしご酒ということで、あまり長く居座ることが出来ないのが残念だが、泣く泣く次のお店へと向かった。

次のお店へと向かう途中に新橋駅のホームが見えた。夕方の帰宅ラッシュのせいか、スーツを着た人たちで溢れかえっていた。私が迷子になっていた時はあまり感じなかった(感じるほどの余裕がなかった)サラリーマンの聖地の雰囲気を、たぶんこの時に一番感じたと思う。どうしてサラリーマンは仕事終わりに新橋に足を運ぶのだろうか、ふとそんなことを感じた。

 

■記憶の味を再現するということ

次に向かったお店は「正味亭」。雑居ビルのような建物の2階にお店を構え、隠れた名店の香りがする。

お店は広々としていて、先ほどのおしゃれな雰囲気とはまた違った、家のような居心地の良さを感じられる空間だ。テレビでは野球中継が映し出されていた。

正味亭を舞台にストーリーを話してくださったのは、店主の尾和さん。かつては広告代理店で働いていたという尾和さんは、サラリーマン時代に感じた居酒屋さんへの希望を自分で実現させるべくお店を始めたという。

「僕がサラリーマンだった時に、お酒を飲むって高いなって思ったんですよ。だからうちでは、お酒にお金を取るのではなく最初に席料を頂戴して、その分お酒はとても安くしています。」

「サラリーマンに優しいお店があったらいいな」という自身の思いを実現させようと努力された尾和さん。

そんな尾和さんのお店の物語が凝縮されているのが今回提供いただいた幻のカレー。サラリーマン時代に、会社近くにあった喫茶店がランチで出していた辛いカレー。当時は激辛などという言葉もない時代だったが、辛さと旨さに中毒者がたくさんいたとのこと。けれど、突然マスターが高齢を理由に店じまい。突然の別れを受け入れられなかった尾和さんの先輩が探偵さんを雇ってマスターを探し出し、教えてもらったレシピがこの幻のカレー。ただ思い出の味を再現するということは本当に難しく、レシピがあるだけでは解決できない問題が山積みだったという。それでも、かつての喫茶店のマスターのお孫さんが「僕も食べたことがないおじいちゃんのカレーが食べられると聞いてきました」と食べに来てくれた時の感動は忘れられなかったとのこと。その時に、風化されていく思い出をいつまでも「味」として残すことの素晴らしさを痛感したそうだ。

カレーに纏わる物語を聞いていると、新橋の幻の「ナスカレー」がテーブルに到着。私は辛いのが得意だったので、お店オリジナルの「激辛」を注文した。水を一切使用していない、玉ねぎから出るお水だけを使用した濃厚カレー。ひき肉のほろほろとした食感とトウガラシの辛さがなんとも絶妙だ。マーボーナスのようなこってりとしたカレーは、これまで何人のサラリーマンのお腹と心を満たしてきたのだろう。

 

■ワインの美味しい飲み方を学ぶ

最後に向かったお店は「ワイン蔵TOKYO」。これまでに訪れた2軒とはまた違って、大人で色っぽい雰囲気がある。こんな場所が新橋にあるんだなあ、と私はきょろきょろしながら、紅い灯りのついた部屋で腰を下ろした。

ここで最後の話をしてくれるのが、「ワイン蔵TOKYO」の中川さん。ユーモアあふれたお話に、私もついふふふと笑ってしまった。カリフォルニアワインは、他のワインと違って熟成させるというよりは、すぐ買って、すぐに開けるほうがおいしく飲めるというワイン。そのため、必要以上の知識はいらないし、誰もが気軽に飲めるところにカリフォルニアワインの魅力はあるそうだ。ところで、ワインというとどうしても「窓際に立ちながらワイングラスを片手にくるくると回して、手でかざしてワインを下から眺める」というシーンを思い出してしまう。(笑)そんな勝手な私のワインへの偏見にも、中川さんはじっくりと教えてくれた。例えばワインを回す時は、持った手が右手の場合は、反時計回りで回す方が良いという。そうすると、仮にこぼしてしまっても隣の人にかかる心配がないのだそうだ。こんな感じで、他にもたくさん教えてもらったのだが、隅から隅まで書いていくとワインの紹介記事になってしまいそう(笑)。けれど、ワインには一つ一つ飲み方に理由があって、ワインに対する印象が変わったような気がした。

■サラリーマンの聖地

こうして、迷子から始まった私の人生初のはしご酒旅は、無事に終了。帰り道、立ち食いそばや牛丼屋さんで、スーツを着た多くの人たちが食事をしている姿をみかけた。自分のために、家族のために、日本のために毎日頑張っている人たちが、ご飯をかき込んでいる。

「サラリーマンはどうして仕事終わりに新橋に足を運ぶのだろうか」と思っていたけれど、その理由が何となくわかったような気がする。

新橋は、人の優しさと物語でいっぱいの街だった。新橋には日々を一生懸命頑張る人たちと、頑張る人を心から支えようとする人たちがいる。神戸さんに案内してもらった新橋は、サラリーマンになるのも悪くなさそうだなって思わせてくれる、そんな素敵な街だった。

早川遥菜


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