AETE あの人がいるから旅したくなる。アエテ

19年度編集長
早川 遥菜

ハンバーグが大好きと公言していますが、 「母の作る」ハンバーグが大好きなのです。 気持ちに素直な人であり続けるために、 今日も沢山の物語に出会います。

2018.10.18

料理を通して、自宅でも職場でもない「第三の場所」を見つけた:北綾瀬

和えて special

■新宿のハンバーガー屋さんで

席がない。

新宿のハンバーガー屋さんで軽食のナゲットを買い、かれこれ10分。私はトレーに乗せたナゲットを持ちながらまだ席に着けずにいた。

こんなことになるなら、アイスコーヒーにすればよかった。ナゲットは外で食べようと思っても厳しいし、だからといってうろうろしていても誰も席を譲ることはない。仕方ないよなあ、みんなだって厳しい席争奪戦に勝った人たちなんだから。

結局席に着けたはいいものの、ナゲットはとっくに冷めてしまっていて、しょんぼり。

レポートを書こうとパソコンを開いても集中できず、私は残りのナゲットを口に放り込み、せっかく勝ち取った席を人に譲って外に出た。

今回の旅するトークはいつもより少し遠い。東京メトロ千代田線の端にある北綾瀬駅。新宿からだと、同じ東京都なのに1時間くらいかかる。

綾瀬駅で乗り換える。スマホの乗り換え案内はどうやら「0番線」というホームに私を導いているみたいだ。それにしても0番線のホームなんて初めて見た。

0番線を走る電車は綾瀬と北綾瀬間だけを運航しているワンマン電車。私の地元ではよく見た「ワンマン」という文字もまさか千代田線で見るとは思わなかった。でも、東京なのにどこかローカル感が漂うこの3両編成の電車に乗るのはなんだかウキウキもする。

北綾瀬駅に到着。新宿とは全く違って、道ですれ違う人どころか、車さえも通らない。街路灯の少ない道を歩いていると、自分はどこにいけばよいのかさえわからなくなってくる。本当にこんなところで旅するトークは行われるのだろうか。もし街の名前を間違えていたらどうしよう。そんな風に思っていた時、明るい雰囲気が漂う一軒の家をみつけた。

■温かい雰囲気に歓迎されて

「welcome to mog mog」と書かれた素敵な看板が立っている。看板には、「北綾瀬旅するトーク『くっつさんの胃袋ぐるぐるハロウィンパーティ』」と書かれていた。

…くっつさん、って誰だろう?

家の中から聞こえる温かい声に促されて玄関へと足を進め、玄関の前で止まってから息を大きく吸う。

なんだかいつもと違う旅の会場にドキドキしてきた。お店やフリースペースとは違って、人のお家の玄関をあがるのはとても勇気がいるなあ。

■最初はちょっとだけ緊張するけれど

既に多くの人が和気あいあいと料理をテーブルに運んでいて、準備は整いつつあるようだ。

「こんばんは、ようこそ。さあ、あがって。」

温かい雰囲気と良い匂いが私を歓迎してくれている。直感でそう感じた。

今回旅を案内してくれるのは、食をコンセプトにしたシェアハウス「mog mogはうす」を経営している丸山寛子さん。でもどこに丸山さんがいるのかわからないほどキッチンの奥にもリビングにも人がいっぱいで、みんな既に打ち解けている様子。こんな素敵なコミュニティに果たして入り込めるのか、という不安もちょっぴりうまれたくらい。

そして今回の旅するトーク、大学生である私にとっていつもと少し違うことが1つ。それは同じ学年の女の子が参加していたことだ。今まではいつも私が1番年下だったから、同学年の子がいると聞いて、勝手に緊張してしまう。新学期の教室のようなざわざわとした気持ちに似たような、あの感じ。

テーブルに並べられた料理を前に、旅するトークがスタートする。まずは丸山さんのストーリーから。

■優しい人と優しい人とがつながって

幼いころ、病弱なお母さんの代わりにお父さんが食事を毎日作ってくれたという丸山さん自身の記憶が、食事は愛情を繋ぐものであると感じ、それから食について学ぶようになったという。

パワポをスライドしながら、「これはこの時の写真で、これはこのイベントの時の…」と進めているうちに、思わず感極まってしまった丸山さん。周りに座っていた人が、なに泣いてるの、と笑いながらティッシュを差し出す。周りの人の優しさと丸山さんの温かい物語にすっかり入り込んでしまっていた私は、おもわずもらい泣きしそうになった。

そして先ほどわたしが誰だ?となったくっつさんのご紹介。くっつさんとは、「mog mogはうす」を設立した際に、不安でいっぱいだった丸山さんを支えた一人である。実はテーブルに並んだ華やかな料理たちはくっつさん特製のもの。くっつさん自身も、食でコミュニティができることへの可能性を感じ様々な活動を行っている方で、優しいひとにはやっぱり優しいひとがつながることを再実感。くっつさんの話を聞いているときの参加者の方たちの笑顔も、なんて素敵なんだろう。

■食事を「とりわける」

ここで念願のお食事タイム。ハロウィンをテーマに盛りつけられた料理はどれも手をつけるのがもったいない。写真に収めてから、みんなで少しずつ、とりわける。

一人暮らしの私には、とりわける、という行動がまず嬉しかった。

「ここによそっていい?」「トマトは、食べられる?」…そうか、食事ってこんなに話が弾むものなんだ、こんなに楽しいものなんだ。

気が付けば、同級生の女の子とも打ち解けていた。素敵な考えや思いをもった同学年の子の話を聞くのは、旅するトークでは味わったことのない嬉しさと感動で、私は胸がいっぱい。私に新しい出会いを提供してくれる旅するトークが、より一層好きになった。

■北綾瀬駅でみつけたもの

あっというまの2時間がおわり、気が付けばテーブルに置かれていたたくさんの料理も空っぽ。帰りたくないなあ、寂しいなあ。

「mog mogはうす」は丸山さんにとって、自宅でも、職場でもない、「第三の場所」。わたしにとって第三の場所ってどこだろう。自分にとって何か大きなものが得られる、そんな特別な場所。丸山さんはそんな大切な場所に、北綾瀬を選んだ。

帰りに北綾瀬駅の小さな改札を通る。奥の方に「北綾瀬ギャラリー」というスペースを見つけた。

駅員さんに言えば何でも飾ってよいのだそう。こんな小さなスペースに…と思っていたら、2点ほど絵が飾ってあった。どのくらいの人がこの絵を見たのかは分からないけれど、こんな小さな場所にも、来る人を歓迎してくれるおもてなしの心をもっている北綾瀬って、きっとものすごく素敵な街なんだと思う。

早川遥菜


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