AETE あの人がいるから旅したくなる。アエテ

編集・ライター
清水 舞

いつでもどこでも、自分らしさを求めて 舞台に出たり、言葉を描いたり、しています。 コーヒーと牛乳と、パン屋巡りが好き。

2019.05.19

東京と土と水と野菜

和えて special

■初恵比寿で、農業を

今日の旅の舞台は、恵比寿駅。地名はよく聞くけれど、先月上京してきたばかりの私は、ここもまたはじめて降りる駅だ。タララララーンララーララー♪聴きなじみのあるエビスビールのCMメロディーと共に恵比寿駅へ到着する。恵比寿というと、洗練されていて、きらきらとしているイメージだ。爪の先までお洒落した大人な女性たちが闊歩しているような。そんなお洒落な街に何をしに来たのかというと、なんと農業である。今日は、恵比寿の駅ビルの屋上庭園で野菜の収穫をするのだ。と言っても今日の私の恰好はとてもカジュアルで、いつも友人とお茶をするときと何ら変わらない。大丈夫なのだろうか。
今回のイベントは、東京の畑や田んぼを中心にフォトジェニックで楽しい職能体験を提供する『NINOFARM』と『ライフフード』がコンセプトの浅草の人気フレンチレストラン『et vous?』そして、東京メトロのコラボレーション企画の第二弾。それぞれの団体の詳細は、第一弾のレポートにて紹介しているので是非ご覧ください。http://storyandco.co/our-story/lifefood/
会場である屋上庭園に到着すると、まだ参加者は誰もいないようだった。それにしても開放的で良い場所だなあ。まだ5月だというのに夏のような日差しだ。温かくて気持ちが良い。ついつい眠たくなってしまいそうだ。
集合時間になると、ばらばらと参加者の皆さんが集まってきた。どうやら皆、随分前から庭園にいたようだ。農業をするような出で立ちの人がいないので気づかなかった。これは、NINOFARMのねらいでもある。NINOFARMが重視するのは、カジュアルやおしゃれというキーワード。従来の農業のイメージとは相違のあるものばかりだ。手ぶらで来て、東京にいながら気軽に農業ができるという手軽さをアピールすることで農業に興味を持つきっかけづくりをしている。

 

 

■手ぶらで農業

さて、いよいよ農作業の開始。NINOFARMの代表、二宮聖也さんが畑の説明をしてくださった。この小さな畑に、パクチー、赤しそ、とうもろこし、春菊等様々な野菜が植えられている。

 

『この野菜はなんでしょう』という問いかけに、興味津々の子供たち。

とれたての野菜は、香ばしくて良い香り。全て無農薬で栽培しているため、とったものをその場で食べることができる。シャキシャキとしていて、すこし甘味もある。そのままでも美味しく食べられることに驚いた。

こちらは、なんと水菜。約一か月でこれほどまでに成長したそうだ。収穫が終わると間引きという作業をする。これは、野菜同士が重なり合って成長を妨げるのを防ぐために程よい隙間を作る作業だ。

とれたてのラディッシュ。光沢があって立派だ。

収穫が終わると、苗を植える。並べるとこれもまたフォトジェニックだ。

楽しかったと感想を伝えてくれた子供たち。普段は、あまり進んで野菜を食べないのだそうだが、自分で収穫した野菜なら食べられるだろうか。農作業は、一時間弱で終了した。あっという間だ。農業というと体力的にきついイメージがあったのだが楽しんでいるうちに終わってしまった。確かにこれなら気軽に通えそう。

 

■とれたての野菜をいただく

すっかり忘れていたが、ここは恵比寿である。一歩外に出ると先程まで農作業をしていたことが嘘のようだ。なんだか不思議な気持ちで近くのレストラン『AELU&BRODO』に移動。

駅前のビルの3階にあるこのお店は、とてもお洒落で流石恵比寿という様相。こじんまりとした店内は今回の参加者の皆が着席すると丁度満席で居心地が良い。まるで家族のような雰囲気だ。店内ではNINOFARMのマツジュンこと松本純子さんをはじめ、お仲間の皆さんや、et vous?の岡部勝義さんが待っていてくださった。私たちが収穫した野菜をはじめとした美しい料理の数々がカウンターを彩る。まるで花が咲いているかのように華やかで美しい料理たちに女性陣の歓声があがる。これぞ写真映えである。私もあらゆる角度から写真を撮ってみたり、動画を撮ってみたり。これは是非ともシェアしたい案件だ。

いざ、実食。どれもこれも美味しすぎて、箸が止まらない。マツジュンさんの料理は目にも楽しく、味も抜群。揚げ物はさくさく、煮物はほくほく。野菜の優しい味が生きていて、最高ではないか。また、生の野菜にも岡部さん手製のディップソースがよく合う。素晴らしい御馳走だ。野菜とはこんなにも美味しいものなのか。あまりにも私が野菜に夢中なものだから、ついに「食べるのもいいけど、取材もしてね」と言われる始末であった。私は、一人暮らしが長いこともあり、実はそれほど食にこだわりがない。ある程度美味しくて健康的なものを食べて、元気に生きていられてらいいかな程度に考えていたものだから。食べ物そのものの美味しさにこんなに感動して美味しく楽しくいただいたのは随分久しぶりかもしれないなと思った。

ふと、普段はあまり進んで野菜を食べないという子供たちに目をやると、こちらもモリモリとなかなかの勢いで野菜を食べている様子。感想を聞くと、とても美味しいとのこと。やはり、自分で収穫した野菜は格別だ。野菜の絵も描いてくれた。上手。きっと、今日食べた野菜の味はずっと忘れないだろう。

 

リア充

それにしても野菜を囲むこの空間には、さながら家族の食卓のような温かくて楽しい空気感がある。きっとNINOFARMの皆さんの和気藹々とした楽しい雰囲気によるところが大きいのだろう。お仲間の皆さんにNINOFARMに参加したきっかけを伺うと、最初はひとりで農業体験に来ていたが知らない間に巻き込まれていただとか、雑誌の編集をしているうちに農業に興味を持ち、気づいたら手伝っていただとか。皆、いつの間にやら参加してしまっていたのだそうだ。確かに、ひょいっと参加して一緒に農作業をしたくなるような気さくな雰囲気がある。二宮さんによるとNINOFARMは、農業ではなく農なのだそうだ。農を生業としているわけではない。だからこそ、面白そうだしやってみようかと気軽に挑戦することができるのだという。二宮さんは、積極的に人前に出て活動を言語化したり繋がりをつくっていくことが得意、マツジュンさんは空間デザインの技術を生かして、人の感性に訴えかけることが得意。ばらばらに集まった皆さんなので、得意分野も様々、価値の作り方が何通りもあるのだ。お気づきの通り、私はマツジュンさんの提案してくださった価値に非常に感動した。価値の受け取り手も様々だから、各々の得意分野を生かして様々に農を広めるきっかけづくりをしているのだ。しかし、たとえそれぞれが全く違う活動をしていても「食と農の心の距離を近づける」という「思い」は同じ。だから方向性がぶれることはないのだという。良い意味でサークル活動のような。肩肘を張らず、それでいて活気あふれる理想のチームだと思った。ところでNINOFARMはリア充演出を通して、農に興味を持つきっかけづくりをしているのだそうだが。NINOFARMの皆さんは、演出でなく本当にリアルが充実していて、きらきらと輝いていた。

はずむ、ひろがる
楽しい食事の時間も終わり、そろそろお開きの時間。しかし皆、名残惜しそうだ。お互いに感想を言い合ったり、名刺を交換し合ったり。食に関する仕事をされている方もいらっしゃって、なんだか楽しそうに仕事の話をしている。何かまた新しいことがはじまりそうな予感がする。農を通して、会話が弾み、人の輪が広がっていく。NINOFARMが目指す未来に、今日もきっと少し近づいたはず。

清水舞


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