新春特別企画、高知の宴、おきゃくを体験しよう
■いそいで、いそいで
とても寒い、1月の夜。
広尾駅に降り立ち、急いで地図を開く。
ここもまた初めて降り立った街である。もっと豪華で高級な街だと思っていたけれど
夜の広尾は人気もどこか少なくて、これから途中参加する私の不安を妙に煽る。
今頃、みんな、料理作り終えた頃かなあ。
授業があったために、今回の私の物語はお料理タイムが終わったところからであった。
作るより圧倒的食べることの方が得意な私にとっては、なんとも幸せすぎる(申し訳なさすぎる)、
参加の仕方となってしまったから、ちょっとだけ心細くて。
と言っても、食べるだけのためにやってきた私を、
ゲストの皆さんはそんなのお構いなしと喜んで歓迎してくれた。
急いで私は食器の準備を始める。いかにも、やっている風である(笑)。
既に出来上がった沢山の料理を見て、私のお腹もペコペコだ。
■心を込めて準備したき、
机には、既に高知の食材をふんだんに使った料理が沢山置かれていた。
かつおの塩たたき、土佐なすのたたき、キュウリとかつおのゆずポン酢和え、
かつおめしにしょうがごはん。
ふかふかの、ほくほくの、つやつやの。
それらはどれも東京に居ながら、遠く離れた高知を旅しているかのような気持ちにさせてくれる。
そんな素敵な料理をふるまってくれる今回の旅のホストは、
さっきから奥のキッチンの方で忙しそうにせっせと動き回っている方なはず…。
遅くなってしまい申し訳ありません、と挨拶をしにいくと、
やっぱり笑顔の素敵なこの方が、ホストのsatomiさんだった。
彼女は生まれが高知県であり、大好きな故郷をもっと多くの人に知ってもらいたいという想いから、
今日の旅が生まれたのだ。
そんなsatomiさんの料理を普段から楽しみにしている沢山のゲスト、いや「ファン」の方々が、今日はたくさん揃っているようで、みんな口をそろえて、
「satomiさんの料理はいつも本当に美味しくて、沢山の種類があるからいつも楽しいんですよ」
と仰っている。どうやら何度もsatomiさんの料理教室に来られている常連さんばかりのようだ。
「これで何回目でしたっけね」「初めて出会ったのは…」「あの時の料理、美味しかったですね…」
本当に彼らは、satomiさんの料理だけでなく彼女の笑顔にこそ引き込まれている、れっきとした「ファン」なのだ。
■こじゃんと食べる
スパイスハーブを使った料理を作ることが多いというsatomiさん。
昔は肌が弱かったことから、いつのまにか健康で優しい、そんな食生活を目指すようになった。
彼女が料理の道に進もうというきっかけになったのは「料理は誰にとっても人生を豊かに彩ってくれる、最大の手段である」ということ。
例え世間が揺れていても、哀しいことがあっても、それでも人々は食べることを止めることはできない。
料理の可能性の大きさに、satomiさんはいつのまにか心惹かれていたのだという。
「でもそれ以上に、食いしん坊だ、という理由が大きいんですけどね!」
いたずらっぽく笑う彼女が作る料理、絶対に美味しいに決まってる。
「こじゃんと、食べてくださいね~!」
どうやら、高知の方言で「たくさんたべて」という意味らしい。
一人一人に用意されたお皿を持って、大皿から小皿へ、みんなで取り分けていく。
一人暮らしを初めて4年。もうすっかり、一人での食事には慣れていると思っていたが、
いつもいつも、この「取り分ける」という動作に、感動してしまう。
分厚いかつおは箸で取り分けるとそのずっしりさにびっくりしてしまうほどで、
新鮮だからか、生臭さが全く感じられない。
茄子もとても柔らかくて、ご飯もほくほくしていて、甘くて、本当に美味しい。
そして今日の旅のお供に欠かせないのは…
「こじゃんと、飲んでください、飲んでください!!」
そう、お酒だ(笑)。
■陽気な高知人
さすが高知人。お酒が強い、強い。沢山の日本酒を持ち寄って、大宴会。
高知では、家族や親せき、友達を招いて催す宴会のことを「おきゃく」というらしく、おきゃくをするのが大好きだという。地元にある「ひろめ市場」では、昼間からお酒を飲む人で溢れているのだとか。
そして見せてもらったおちょこには、小さい穴が開いていた。
「どうして穴が開いているのでしょうか!」
不思議そうに穴を見つめる私のことを、みんながニヤニヤしながら見てくるのが、とても面白い。
なんとその穴とは、一度お酒を注いだおちょこを永遠に離せないようにするためだというのだ(笑)。
つまり、岩手のわんこそばのように、永遠に飲まなくてはならないということ。
なんとも、恐ろしい(笑)。
お酒を飲んで顔を真っ赤にしながら、美味しい料理と、高知の話でもりあがる今日の「おきゃく」。
わたしは高知に行ったことは無かったけれど、
高知が大好きな人に囲まれているだけで、私も何故だか行った気分だ。
食べ物の話は尽きることは無く、高知を旅したかと思えば、スペインに行って食べた料理の話だったり、この間作った料理の話をしてみたり。
食べ物だけで私は随分と長い旅をしている気分だ。
■あれもこれも、食べてほしくて
美味しい食事もあっという間になくなり、(ただしお酒だけはさすがに本場の高知人ほど飲むことができず、持ち帰ることに)
食後にと、satomiさんがテーブルにディスプレイされていたお菓子を持ってきてくださった。
これらはsatomiさんが帰省した際に土佐の日曜市で見つけたとっておきの高知名物たち。
あれもこれも食べてほしい!そんなsatomiさんの想いが、こんなにも
沢山の食べ物を、この場所に連れてきてしまったようだ。
ミレービスケット、ぼうしパン、いもけんぴ…どれも私の大好物。
ぼうしパンは初めて食べたが、高知では最もおなじみの食べ物らしく、satomiさんは万国共通でないことに驚きを隠せなかったのだとか。