小森寛美さんの『ドライフルーツとナッツで作るブリスボール作り』
■私にとって、甘いものは
甘いものが、好きだ。
友達と楽しく遊ぶとき。イライラしたとき。少しだけ寂しいとき。どうしてか悲しいとき。どんなときも甘いものがいつも傍にある。ぽいと口に含めば、それは私の心を包んだり、溶かし込んだりして、ほんの少し安らぎを与えてくれる。
それはきっと私だけじゃなく、たくさんの人が感じていることじゃないか。お菓子はいつだって、私たちの友達だ。
けれど、同時にお菓子は身体に良くない面もある。我慢したり控えたりすることも大切で、時にはそのことがストレスになる場合もある。自分の肌や体調を守るためにお菓子を食べるな、と言われてしまったら、私はどうなってしまうだろう。
今回のホストは、そんな葛藤の中で「お菓子作りを教える」という仕事に辿り着いた、一人の女性だ。
■物語の始まり
4月20日、日曜日。
この日は私にとって、AND STORYにおける初取材の日。豊洲駅で先輩の早川遥菜さんと集合した私は、初めての旅と初めて食べるお菓子に胸を膨らましつつも、少しの不安と緊張を抱えたまま、目的地に向かった。
豊洲フォレシアというビルに着き、スタジオ「インスタイル」の中に入ると、気品の溢れた綺麗な女性が私たちを暖かく迎え入れてくれる。
その綺麗な女性が今回のホスト、小森寛美さんだった。そして今回教えてくださったのは、ドライフルーツやナッツを使ったオーストラリア発祥のお菓子、「ブリスボール」だ。
小森さんは普段からこのスタジオで、ロースイーツの作り方を教えている。ロースイーツとは、火を通さずに作るお菓子のこと。小麦粉や白砂糖、バターや生クリーム、卵などを一切使用せずに作る。だから体に優しく、女性に人気が高いお菓子で、ブリスボールもそんなロースイーツの中の一つだ。
■いざ、お菓子作りへ
さて、早速お菓子作りが始まった。料理もお菓子作りもしたことのない私にとって、机の上に並べられたドライフルーツはほとんど知らないものばかり。けれど、小森さんは材料一つ一つについて丁寧に、味や栄養素、健康にもたらす効果まで細かく説明してくれる。不思議なことに、初めて見るデーツというフルーツや見慣れたはずのアーモンドも、小森さんのお話の後だとなんだか違うものに見えてきた。
この日は、私たち以外にも三人の女性が体験に参加していた。初めて来た人もいれば小森さんの授業を何度も受けている方もいたけれど、みんな落ち着いて静かに小森さんのお話を聞いている。私も少しずつ緊張がほぐれて、気持ちの波が穏やかで静かなものになってきた。
ブリスボールの作り方は意外とシンプルだ。ドライフルーツとアーモンド、その他にアガベシロップやカカオパウダー、おつまみみたいにしたかったらドライトマトとバジルを入れて、それぞれをミキサーにかけ、混ざったものを一個一個丸めていく。このとき、お砂糖やバター、卵や生クリームなど高カロリーなものは一切入れない。栄養価が高く食物繊維なども多く含まれた食材を使うだけで、とっても甘くて良い香りがするお菓子が出来上がるのだ。
最初は初めて名前を聞くお菓子に戸惑っていたけれど、簡単に作れるブリスボールを丸めていくうちに、どんどんと楽しい気持ちがこみ上げてくる。
「全部同じ大きさに丸めるのは飽きちゃったから、二倍の大きさのものを作ってみますね!」
「それは大きすぎますよ!」
「じゃあ私は半分の大きさのブリスボールを作ってみますね!」
最初は会話も殆どなかったけれど、時間が経つにつれ和気藹々とした賑やかな空気が流れ始めてきた。この空気を吸って出来上がったブリスボールは、一体どんな甘さなんだろう?
■はじめての試食!
さて、そんなこんなで出来上がったブリスボールは、こんなに可愛い盛りつけで、机の上に現れた!
ブリスボールにバジルを添えると、あっというまに華やかな印象になる。そして、菊花や枸杞の実などの漢方をブレンドした中国のお茶、「八宝茶」がガラスの器に入って登場した。小森さんの好きな、可愛い猫のポットによってお湯が注がれていく。
「猫が好きなんです」
そう無邪気に笑う小森さんは、とても気さくで、かわいい。
料理体験に来たとは思えないほど素敵なおもてなしに、私たちは終始幸せな歓声が口から零れていた。驚いたのは、華やかな盛り付けに使われるランチョンマットもお皿も食器も、全部、小森さんが好んで集めたものであるということだ。そのどれもが高価なものというわけではなく、誰もが手ごろに買えるものばかり。だからどれに触れても、小森さんが感じた美しいトキメキと親しみやすさが伝わって来たのだ。
■into くちの中
お花が咲いたお茶の香りを楽しみながら、出来上がったブリスボールをそっと口の中に運ぶ。
ホッとする甘さ。アガベシロップと果糖だけで作られた甘さだから、全くしつこくないのに、口の中に広がっていく。カカオの香りが心を落ち着かせて、最初にここを訪れた私の抱いていた不安と緊張が、ほろほろと溶けていった。
お菓子って、こういう力があるんだ。
■お菓子の持つチカラ
お菓子って体に悪い。太るし、肌も汚くなる。
そんな理由でお菓子を制限したい女性は大勢いるかもしれない。だけど、体に良いものしか使っていないロースイーツなら、誰だって気を張らずに食べられる。栄養素も沢山入っているから、妊婦さんへのプレゼントにも最適だ。
お菓子に対する思いを、小森さんは語ってくださった。
「お菓子って誰でも作れるし誰でも食べていいんだから、好きな人には制限して欲しくない。私は仕事が大変だった頃、なんで周りより頑張ってストイックな食生活をしているのに求めるような自分像になれないんだって思ってずっと辛かったけれど、ロースイーツに出会って、制限するのをやめて自分の内側から変わることを意識するようになってから、全くストレスはなくなって、体調も整うようになった。そのときになって、気づいたんです。
食べたいものは食べていいし、お菓子だって材料を選べば体に良いこともある。ロースイーツだって、無理にこればっか食べようとしなくても、自分の好きなものだけを自由に生活に取り入れていけばいいと思う。
ここに来るお客様には、食べたいものを無理して我慢する必要はないんだって伝えていきたい。」
無理することを辞めて自由に好きなものを食べるようになってからは体も心もスッキリしたとおっしゃる小森さん。
「ジャンクフードとかも大好きなのよ。ハンバーガー、大好き!」
笑って言う小森さんの肌は綺麗で体も細く、嘘だぁ、と言って私たちは笑った。
でもそれほどの美しさを保っているのは、きっと食生活への努力だけではなく、自分に素直に生きることを選んだ前向きさによるものかもしれない、と思うと、少し納得してしまうな。
そんな小森さんの思いがこもったブリスボール。最後のひとつを口に入れると、ほっこりと優しい甘さがまた私を包みこんだ。
■つなぐ縁、広がる輪、まるいお菓子
「ご縁で繋がった」
これは、体験の間小森さんの口から何度も出てきた言葉だ。ロースイーツを教えるようになった経緯を小森さんに尋ねてみた。
元々大学卒業後官公庁に勤めていた小森さんは、一年でそこを退職し、CAとして海外に拠点を置いて仕事をするようになる。だが、憧れだったCAの仕事は体への負担も大きく、当時は肌荒れと体調不良にずっと悩まされていた。食生活に気を配り、糖分を控えねばならない生活が始まりましたが、炭水化物が大好きな彼女にとってそれはストレスでしかなかったのだ。
そんな中で出会ったのが、ダイエット中の人でも気軽に食べられるお菓子、ロースイーツ」だ。
これなら体に悪くないし、効果的に食べれば健康的な作用ももたらしてくれる。しかも、作るのも簡単だ。そこで小森さんはロースイーツの作り方を研究し、ドライフルーツやナッツについても深く調べるようになった。やがてSNSなどを通して「作り方を教えて欲しい」という声がかかるようになり、そんな繋がりの輪が、どんどん広がっていった。スタジオを貸してくれる人が現れ、何度も挫折を繰り返しながらも、豊洲と中野で教室を持ち、沢山の生徒さんが学びに来る居場所を作り出すことができたのだった。
だから、「ご縁で繋がった」。
官公庁を辞めた時も、CAを辞めた時も、教えるスタジオが使えなくて絶望した時も、窮地に達して自分がどん底にいると思ったとき、そこで諦めずになんとか上を見て踠いていたら、いつも誰かが手を差し伸べてくれた、と小森さんは語る。
「挫折して、どうすることもできない、辞めようと思ったことが三回あったけれど、絶対そのタイミングで、必要なものがそのまま来る。だから結局これをやった方がいいって気付かされるんです。」
■つよい思い
失敗を恐れて前に踏み出せない、ということは誰にでもよくあることだ。だが、失敗するたびに自分さえ上を見ていれば誰かが助けてくれる。そう思えるようになったからこそ、失敗が怖くなくなり、自分のやりたい仕事をできるようになったのだ。
「自分で決断してやって後悔しても、それは自分で経験できたことだから、いい。誰かに止められたからって自分で決断しなかったら、できなかった後悔が残る。
私はCAを辞めたとき、それからの人生を辞めて良かったって思えるような選択をして生きていこうと決めたんです。自分が何かしたいとき、試されたりあしらわれたりすることって絶対にあるけれど、それでもやっていくって決めたときに、未来は拓けると思っています。」
前を向いてしっかりとそう話す小森さんは本当に輝いていて、素敵だ。本当のことを言うと、最初は、小森さんは綺麗であるがゆえに、少し淡白そうにも見えていた。けれど、お菓子に対する思いも生徒さんに伝えたいと思っていることも、ここに来るまでに歩んできた人生も、全てが真っ直ぐで前向きで、本当はとても情熱的な人なのかもしれない。ここで教わったのはブリスボールの作り方だけではなくて、ひとりの女性が歩んできた、ひとつの物語だったのだ。
■「さようなら」
お話を聞き終えた頃にはもうすっかり私の最初の緊張は消えてなくなっていて、小森さんと写真も撮って、楽しいひとときを過ごせている自分に気がつく。
失敗することを、挫折することを恐れずに生きられたら。
あたらしい一歩を踏み出す勇気を与えてくれた小森さんに感謝してビルを後にすると、4月の暖かくて柔らかくて、ほんの少し肌寒い風が、透明な青い空から吹き抜けてきた。
小森 寛美さんのストーリー(体験)はこちらから
加藤理矢