AETE あの人がいるから旅したくなる。アエテ

19年度編集長
早川 遥菜

ハンバーグが大好きと公言していますが、 「母の作る」ハンバーグが大好きなのです。 気持ちに素直な人であり続けるために、 今日も沢山の物語に出会います。

2019.04.13

大切な誰かと過ごした場所や時間をきちんと残すために、今日もカメラを持つ。:門前仲町

和えて special

■見上げた先にある物語を求めて

雲一つない、春らしい、幸せな青空を眺める。

そう、私は上を見ながら歩くのが好きなのだ。
昔から好きだった。自転車に乗りながら風の匂いを嗅いだり、気紛れに流れる雲の行方を追ったり、枝についている新芽を数えたり。
そのせいで高校生の時に砂利道を踏み外してネギ畑に落ちたり、電柱にぶつかったりはしたけれど(笑)、私だけの速度で、雲や風と景色の流れを共感しあうことは、きっと自分だけが持つ特権なのだろう。

そんな私の「上」の位置づけも、一度は大きく変わったことがあった。上京して間もない頃、いつものように上を見上げても、高層ビルのてっぺんは頭が見えないし、空を流れる雲の行方も建物によって途中で遮られてしまう。私はいつのまにか、足元や携帯を見る癖がついていた。灰色でマス目がしっかりとつけられた変わりのない道を、とことこ歩くようになった。東京はつまらないと思っていた。

でもこれは、ANDSTORYに出会うまでの話。
こんな素晴らしい青空を東京で観られるなんて、幸せ者だなあ。

■門前仲町と、東西線

今回の旅の会場は、「room EXPLACE門前仲町」。この施設は今年の3月にできたばかりのキッズルーム付きのコワーキングスペースだ。仕事と育児の両立や、多様な働き方を支援したいという東京メトロの願いが、新規事業として形になった。


なぜ門前仲町という街を選んだのか。これには、「東西線」が大きく影響しているという。
東西線(特に木場-門前仲町間)は、首都圏の混雑路線ワーストワン。なんと200%近い混雑率なんだとか。これは、沿線に住んでいる人にとってはストレスに感じることだろう。東京メトロはこの課題に目を向け、価値を高めたい場所としてこのエリアをとりあげた。東西線を利用する人々にとって、少しでも快適な生活の助けになれることは何だろう。誇りをもって「東西線ユーザー」だと思ってもらえるには何をしたらよいのだろう。

そんなメトロさんの深い想いが込められている場所に、今日はずらりと写真がいっぱい。


どの写真も、街や人から声が出てきそうで、すごく素敵な写真ばかり。あ、AND STORYの広告もある。そして人がだんだん集まってきたところで、いよいよ今日の旅が始まる。

■がんばれ、と応援しながら

ホストの内海麻奈美さん、ゲストスピーカーの足達奈穂さんと私は、実は前から面識があった。

麻奈美さん(通称まなさん)は、私と同じAND STORYのスタッフで、広報やコミュニティマネージャーとして活動されている。長女の私にとってはまるで憧れのお姉さんができたかのようで、AND STORYにとっても私にとっても欠かせない大切な存在だ。今日はまなさんにとってホストデビューの日でもあるから、私までなんだか緊張してしまう。

そして足達奈穂さん(通称なおさん)は、現在(2019年2月~)東京メトロの各地下鉄で掲載されているAND STORYの広告の写真を撮ってくださったカメラマン。
前回の撮影会では、カメラを撮る「かっこいい」姿しか見たことがなかったけれど、今日のなおさんは、膝元に文字でいっぱいになったノートが置いてあって、少し緊張している様子。どうやら私は、「可愛い」なおさんの一面も見つけてしまったようだ。

■「哀しみ」に向き合う

お父さんの転勤の都合で、小さい頃は海外で暮らしていたというなおさん。海外から日本を見つめることで、わびさびの文化や日本人の控えめな雰囲気がいつのまにか「憧れ」になっていた。
「陰」の部分を感じる日本はかっこいい。それは海外経験のない私にとってとても新鮮な感覚だった。控えめであることはいけないことだと思っていたけれど、それは海外の人にとっては美しさを見出すこともある。
そんななおさんが日本を遠くから見ていた経験は、写真にも大きな影響を与えている。

なおさんが写真を撮り始めたのは、実はお子さんを産んでからの話。もともと写真を撮ること自体は好きだったが、子どもを撮ることばかりが増え、風景に目を向けられるようになったのは子育てがある程度落ち着いてからのことだった。
海外の建築物や洋風の街並みの方が写真に収めるのに向いているのでは…?と思うのだが、それでもなおさんがなぜ「東京」の街にこだわるのか。そこにはなおさんのお母さんの存在がある。

東京が大好きで、東京のことなら何でも知っていたというなおさんのお母さん。そんな大好きだったお母さんが亡くなって哀しみに暮れていた時、大好きだった母の「東京」の姿を残したいと思うようになった。
そんな想いで開いた個展「sad tokyo」では、涙を流す人と東京の街を重ね合わせた写真を多く展示し、観る人の心に強く衝撃を与えた。
「きっと、モデルさんの涙を撮りながら、その全てを自分に重ねていたのだと思います」
私だったら、わざわざ悲しみの瞬間を形に残すなんてことはしない。だって、いち早く忘れてしまいたいと願うから。
だけどなおさんの写真からは、幸せや喜びを切り取るだけでなく、悲しみや苦しみなど、人がもつ全ての感情に向き合うことの大切さを教えてもらえるような気がした。

■東京と男の子を撮る

そんななおさんの写真に特徴的なのは、東京の切り取り方が独特なのと、男の子がいるということ。
私たちがカメラを向ける先といえば、大抵はオシャレでインスタ映えで、観光地や注目を浴びるものが多いと思う。
だけど、なおさんの写真は、思わず「ここはどこ?」と思ってしまうほど、その写真の奥にある景色はどこにでもある日常のモノばかり。
そして、なおさん自身無意識だというのだが、写真にはいつも「電柱」と「直線」が入っていて、建設物や工事現場、カラーコーンなども登場することが多いんだとか。
最近は、日本の古き良き景観を残す活動として、電柱が地下に埋められたり、工事現場の様子が隠されるようになってきた。それは私たちにとって、邪魔だったり、迷惑がられるものばかりだからだ。
だけどなおさんは、そんな景色こそを大切にしている。築地の写真とは思えないほど、無機物なものが詰まった場所だったり、黄色い工事服を着こんで一人コンクリートの道に立っているおじさんだったり。一つ一つの場所、一人一人の役目にはきちんと物語があって、きっとなおさんはそんなストーリー性を無意識にも感じているのだろう。

そして、必ずなおさんの写真に登場するもう一つの被写体が「男の子」。
なおさんは、この被写体である男の子との、最後まで打ち解けない絶妙な関係性にすごく魅力を感じるのだそう。最後まで溶け込めない男の子の存在感は、より街の温度や空気感を強めてくれる。
しかしなおさんにとって、男の子を撮る機会が多いほど、被写体になった男の子がその街を好きになってくれたり、より東京に愛着を持ってくれた瞬間が、何よりも嬉しいことらしい。

■あなたの好きな「東京」を切り取る

今日の井戸端イムは、「あなたの好きな、街の風景」。いつものように、その場所がどこなのかは言ってはいけない。その場所や風景にまつわる自分の思い出を語りながら、みんなでその場所を当てっこしていく。
今回のゲストの皆さんもまた、お気に入りの場所が沢山あるようでとても盛り上がる。私が聞き耳をたてると、「昔住んでいた場所で…」「つい地元の人と話したくなってしまう所で…」などなど、切り取り方も様々だった。

東京に来て早くも4年目になってしまった私には、東京の街がたくさん頭の中に浮かび上がるということだけで、もう嬉しくて仕方がなかった。
慣れない場所で、まるで故郷のような懐かしさを思い出す。自分にとっての東京の位置づけもまた、変わってきているのかもしれないなあ。

■東京を好きになってもらうために

「母」の面でも、「自分らしく生きる女性」の面でもきらきらと輝くなおさん。
そんな誰もが憧れるなおさんだけれど、いつも大切にしていることは、「やる」と決めること。
「『やる』と決めれば、自然と仲間が集まって、必ずちゃんとできるものなのです」
お母さんが亡くなった時に、火葬場へ向かう途中の、シャトルバスから見えた景色は、
お母さんが亡くなった今も、確かにここに、ある。
少しずつ東京の街も変わってしまうのかもしれないけれど、大切な誰かと過ごした場所や時間をきちんと残すために、なおさんは今日もカメラを持つ。

気が付けば外はすっかり日が暮れて、門前仲町の街にも明かりが灯り始めた。
私はなおさんとは違って、カメラは持たないけれど
その代わりに言葉を使って、人や、街や、想いを残していきたい。
いや、絶対に残していかなくてはならない。「やる」と決めたからには。

早川遥菜


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