AETE あの人がいるから旅したくなる。アエテ

AETE編集部からのお便りです。また正式なAETEの書き手では無いけれど、1度書いてみてくれた書き手たちの記事も載せています。その場合、各記事の書き手は文末でご確認頂けます。たった1度の物語でも、AETEは大切に綴っていきます。

2021.12.29

【みんなのあのね】夜更かし娯楽論集(前編)

会えて report

2021年10月~12月に開催致しました『みんなのあのね vol.2』。

「わたしの夜更かし娯楽論」というテーマのもと、編集部に寄せられた熱い作品レビューをご紹介します。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

■10月6日

映画は映画館で観るのが好き。館内は暗く、スマホは使えず、上映中は(基本)誰かが立ち入ることもない。ただわたしと作品のやり取りだけが在る空間の心地良さは、日々色々なことを考え続けなければならない現代社会のオアシスのように思う。ということで、月に数回映画館に通うライトな映画好きのライトな感想を綴っていきたい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

📽「燃ゆる女の肖像」(2019)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

観たのは結構前だけど、衝撃は未だ鮮やか。今よりもっと男性優位だった社会における女性同士の密やかな連帯の描き方、劇中に登場する様々な芸術作品を起点として物語が展開されていく脚本の明瞭さ、効果的な音楽の使い方。とても静かなのに、ドキドキが止まらない映画。

特に印象的だったのはやはり音楽。この映画は基本的に劇伴を使わず、その場の環境音と登場人物の呼吸音を引き立たせるように作られている。それによって、物語のキーとなる楽曲がここぞという場面で流れたときに、楽曲自体の魅力と、音楽に乗せられた登場人物の激情が真に迫る。劇伴自体ではなく、最小限の劇伴で観客に訴えかけるというその使い方に感動したのは初めてだった。そんな音楽の良さに気付けたのは映画館の音響技術あってのこと。リバイバル上映を渇望する作品の一つである。

 

▷映画の内容だけではなく「音」に注目して綴って頂いた文章。繊細な感受性がとても魅力的だと思いました。映画館で見るからこそ感じられる衝撃がありそう。ぜひリバイバル上映して欲しいです!

 

■10月13日

恋をすると世界の見え方が変わるというけれど、恋らしきものを殆どしたことがない私にはそれがよくわからない。けれど、江國香織を読んでいるときの感覚はそれに近いような気がしている。

詩的でやわらかで透明で女性的な文章に触れていると、世界に存在する細々としたものに、それ相応の質量が与えられて、平らかな世界に面白みが生まれるような感じがするのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

📚「ウエハースの椅子」(2004)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

江國さんの本を多く読んだわけではないけれど、ウエハースの椅子で語られる言葉はとりわけ詩的で、留めておきたくなるようなものばかり。

38歳の女性画家の、不倫相手との日々を描いたお話。特に何か大きなことが起こるわけではなく、平坦で、淡々とした世界だけど、主人公たちの語る言葉が本当に耽美的で、でもはっとさせられるのだ。

満ち足りた幸せと、絶望が隣り合わせの脆さ。それでもその幸せにしがみついてしまう切なさに胸が苦しくなる。書きながら思ったけれど、今日みたいな肌寒い秋の夜にぴったりなんじゃないかなぁ。

 

▷じっくり感情と向き合える時間の中で読みたくなる小説だと思いました。そして年を重ねてこの小説を読み返すことがあったら、ぜひこの投稿に戻ってきてもらいたいです。きっと、ご自身の変化を感じられるはず。その時まで大切に保管させて頂きますね。

 

■10月20日

私にとって、1人で行く映画館はまるでシェルターだ。

地に足をしっかりつけて踏みとどまらないといけない現実から、少し離れたくなる時。ふだん自分が生きている世界とは別の空間に、身を潜めたい時。映画館の暗闇にするりと溶け込むような感覚で、様々な物語に旅をする。暗闇が自分を「何か」から護ってくれているようで、ほっと安心する。今回は、そんな私が世界で1番好きな映画を紹介したい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

📽「グラン・ブルー」(1988)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

スキューバの道具を用いず、たった一回の呼吸でどこまで潜れるかを競う、フリーダイビング。それに全てを賭ける二人の幼馴染の友情や、彼らを見守る海とイルカの様子が描かれた物語だ。誰も到達したことのない、蒼くて深くて暗い世界、グラン・ブルー。そこを目指し己と向き合い続ける主人公ジャックのキャラクター性や、舞台であるイタリア・タオルミーナの海の美しさが好きだ。しかし1番お気に入りのシーンは、ジャックの葛藤場面でも、綺麗な海でもない。ジャン・レノ演じる、ジャックのライバルであるエンゾが、マンマの大盛りパスタを無我夢中で頬張るシーンである。野望を果たすためには生きる。生きるためには食う。癒しとワクワクに心を満たされたあと、今度はペコペコに空いたお腹を満たすために、私は現実へ帰るのだ。

 

▷迫り来る現実からちょこっとだけ目を背けたい時、映画の約2時間という尺や、映画館の暗闇はきっとちょうど良いのだろうなと思います。
食べることとは生きることだと思っているから、パスタのシーン観てみたいです。

 

■10月27日

人生の中で何回も読み返す本に出会うことはそう多くない。そしてそういう本は読み返す度に違うところが気になったりするものである。今日はそんな話をしよう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

📚「アンナと王様」(2000)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

最初に出会ったのは中学生の時だった。

当時は「タイの王様とイギリス人女性のラブストーリー」くらいにしか思っていなかった。王様に愛されるっていいな。映画にもなったラブストーリーは2人でダンスをするというロマンチックなシーンもあったのだから。

でも、時を経て読み返してみると、主人公のアンナはなかなかの苦労人なのである。旦那に先立たれ、息子を引き連れて訪れたのは異国の地。気候もしきたりも違う土地で知恵を絞りながら生きていく。その後は外交問題や人権問題にも巻きこまれていくのだけれど、彼女は強い意志を持ち、機転をきかせながら愛を持って対応していく。そう、これはただのラブストーリーではない。1人の強く賢く生きた女性の物語なのだ。

何回も読み返す本というのは、こんな風に見え方が変わるからおもしろい。あなたにも何回も読み返す本、ありますか?

 

年齢を重ねると印象が変わる作品ってありますよね。好きな作品と長く連れ添う中で、今まで気づかなかった新たな魅力に気付く瞬間ってとても素敵ですし、理想的な娯楽とのふれあい方だと思いました。アンナの人生も気になります…!

 

■11月3日

私はせっかちなので、たくさんの情報やものに触れるたびに、あれもこれも吸収しなくちゃ、やらなくちゃと思ってしまう。なのに時間もわたしも全然足りないから、たいへんだたいへんだという気持ちになって、ひとり怖く淋しくなる。そういう時には、淡々としたものが恋しくなるのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

📽「ダウン・バイ・ロー」(1986)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ジム・ジャームッシュ作品の、ほんとのようで嘘みたい、手が届きそうで届かない、その距離感と温度感が好き。淡々と流れる空気や会話や音が、風景が、画が、全部ちょうど良くて心地よいのだ。

ダウン・バイ・ローは、刑務所で出会ったちぐはぐな3人組が、口論やしょうもないやり取りを繰り返したあと脱獄するだけの話。それだけだけど、3人のアンバランスさやシュールさが本当に癖になる。くくりは脱獄モノだというのに驚くほど緊迫感がなく、どこか非現実的なのだ。

痺れるほどかっこいいオープニングと、のちの「ライフイズビューティフル」で父親を演じるロベルトベニーニが個人的見どころ。

 

▷淡々とした日常に違和感をひとさじ。隣のテーブルの会話が漏れ聞こえてきて、思わず耳を傾けてしまうときのような感覚。そんな印象があります。平静を取り戻すときに観る作品との事で、確かにピッタリだなあ!と共感しました。

 

■11月10日

初めて訪れる町を、地図を持たずに歩いてみる。

人々との一期一会を重ねつつその土地を歩いてみることで、「自分だけの旅」はだんだんと完成される。そんな放浪旅が好きな私の原点は、とあるテレビ番組との出会いだ。

前の記事前の記事 BACK TO 会えて 次の記事次の記事

アスエ event