NewMaker×Colemanーテントから生まれたドレスの物語ー(前編)
株式会社Story&Co.は『想いの交差点』を創出する新たなプログラムを今年7月にスタートしました。
サステナブルなファッションコミュニティ「NewMake(ニューメイク)」です。大量消費・大量廃棄を余儀なくされる現代のファッション業界に一石を投じる試みとして、パートナー企業から提供して頂いた洋服や雑貨を利用し、新たな価値作りに挑んでいます。その拠点となる「NewMake Labo(ニューメイク ラボ)」には個性溢れる作り手・NewMakerが集まり、ものづくりと向き合っています。
私たちはこのシリーズでNewMakerの1人1人にスポットを当て、そのルーツや想いを探ります。そして服を通じて大切な想いや物語のバトンを繋ぎ、新たな価値を生み出すNewMakerの魅力を発信していきます。
NewMakeについて語るときにNewMakerの語ること。
今回はNewMaker×Colemanの作品を制作頂いた礼さんのインタビューをお送りします。
作成されたドレスは一青窈さんもイベントで着用!作品に込められた思いをお伺いしてきました。
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NewMaker PROFILEーAya Kadoiー
大学卒業後、服飾専門学校に通学したのちフリーランスで活動中。
デザイン、パターン、サンプル縫製の委託や自身の作品制作を行なっている。
大学在学中はウェディングドレスの研究制作を専攻。ロンドンへの短期留学経験もある。
一方で3歳からバイオリンを始めピアノ・ビオラも学び大学までオーケストラに入団していた経験もあるため、音楽にも造詣が深い。
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◾️ファッションを志したきっかけ
ー礼さんはいつからファッションに興味を持つようになったんですか?
1番最初に興味を持ったのは高校生の頃でした。雑誌のスタイリストに憧れたことがきっかけでファッション業界に興味を持つようになったんですが、デザイナーになりたいとはあまり他人に言えずにいました。
大学は被服学科に進みましたが、当初は家庭科の先生になろうと思って入学していたんです。でも大学3年生の時ロンドンに短期留学して、今までと全く違う世界を目にして考えが変わりました。街中でストリートパフォーマンスの音楽がなっていたり、おじいちゃんが家から持って来たようなガラクタでダンスしてたり。ハロッズで男性が化粧品を売っていることも今では違和感のない光景ですが、7〜8年前の日本では見られない光景でした。学校が終わるとピカデリー(ダウンタウン)に行ってショーウィンドウのディスプレイを観たり、グローブ座やアポロヴィクトリアシアターで演劇やミュージカルを観たりして多くの刺激を受けて、もっと自分の中にあるものを自由に表現したい!と思い、デザイナーになると言う夢に向かい始めました。
ーロンドンのカルチャーとファッションが礼さんに大きな影響を与えたんですね。
かなり大きな影響を受けました。しかし、このまま大学を卒業しても専門的な技術が足りず、直ぐにデザイナーになることは難しそうだったんです。そこで、より専門的にクリエイションを学ぶために大学とWスクールでパターンとスタイリストの専門学校に通いました。大学卒業後はウェディングドレスのコーディネーターとして働き始めたんですが「やっぱりデザイナーになりたい」という思いが強く、その後ジュエリーのアトリエでクリエイターアシスタントをしながら企業のデザイナーを受けていたんですけど、更に深く突き詰めるなら今しかないと思い、社会人を辞めて再び専門学校へ行くことを決意しました。早朝から夜中まで必死に制作をしてました。
ー専門学校卒業後、現在はどんなお仕事をされていますか?
専門学校在籍時から友人のブランドの手伝いなどをしています。パターンを引いたり、サンプル作成や縫製指示書を作るところまでお手伝いさせてもらっています。お手伝いする時は初めに目指す方向性やサステナブル、エシカルの認識などブランドとの意思疎通をはかって細かくお話させて頂いた上で決めています。
そしてその仕事の合間に、自分が作りたい作品を作っています。その1つが「Depaysement(デペイズマン)」。シュルレアリスムの世界観でジェンダーレスもテーマにしてデザインをしています。私の周りにはLGBTQ+を公表している友達が多かったのですが、3〜4年前の日本は今よりも周囲の理解が少なく、今もまだフランクにカミングアウトできない人も多くいる環境だなと感じています。皆それぞれが心地よく生きられるようになればいいな、理解者が増えるようになればいいなと思い、その気持ちをスタイリングやデザインに込めています。
※ジェンダーレス・LGBTQ+への思いを込めた最初のスタイリング作品。
2020年のオリンピックをイメージして2017年に制作した作品です。(写真:山田昭順)
◾️NewMakeとの出会い
ーNewMakeとはどこで出会ったんでしょうか?
将来的にブランドを立ち上げたいと思っているのですが、そのために同じ目線で活動できる仲間を見つけたいと思っていました。それに学校の枠から出てしまうと自分の作品を作る場所や機会がなくなってしまう。アートとしての服や衣装も作りたいし、縫製やパターンについてもまだまだ勉強したい。そう思いながら居場所を探していました。その時にSNSからNewMakeのことが流れてきて、ここだ!と思いました。
ー今回Colemanの素材を使って作品を作ろうと思ったのはなぜだったのでしょうか?
登録はしたもののサステナブルに関しては個人の見解が多種多様で難しい問題だと感じていたり、雰囲気など分からないこともあったので、少し状況を見ていました。でもColemanの情報が回ってきた時にテントを見つけて。「テントを素材として使えることなんてない!おもしろそう!」と思って、足を運びました。8月の終わりくらいだったと思います。
ーそこからどうやって作品をデザインしていったのでしょうか?
テントの素材感は知っていたので、アウトドアをいかにクラシカルでモードにするか、『アウトドアとモードの対比』がテーマとして頭に浮かびました。
私にとってColemanと言えばテントのイメージが強い。子供の時は家の2Fにテントがあって秘密基地のようにして兄弟と遊んでいた楽しい思い出のあるものでした。
一方で自分の作ってきた服はポップだけれどクラシカルなものが多かった気がします。それは、ロンドンカルチャーを体感してきたり、様々なジャンルの音楽に触れてきたり、大学までクラシック音楽を演奏してきた影響もあるのかもしれません。今回はポップさを抑えて、少し近未来的にも感じられる要素も加えました。
またコールマンの歴史を調べてみると、1903年に自家製ランプを作り始めたことが起源だと知りました。そこで創業と同じ1900年代前後のドレスにしようと思い、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館の図録なども参考にしました。
ーファッションの歴史も1つのヒントになったんですね。
歴史や固定観念にとらわれず制作したいという思いがあったので、歴史的にはこうとされているけれど、それを一度壊して新たなものに置き換えて再定義するための材料と言う感じです。今までも自分のデザインは今回のテーマのように対比や相反するものでデザインしてきたことが多いです。
ーそれは何か理由があるのでしょうか?
育った家庭環境かもしれません。両親共にピアノを弾いていて音楽を教える仕事もしていたんですけど、日常的に聴いたり演奏する音楽の系統はバラバラで。母はポップス系をピアノやエレクトーンで弾いていて、私が幼い頃に車で流れていた音楽もJ-popやフォークソング、洋楽がメイン。また実家のレコードから推察すると60年代-70年代のプログレ(プログレッシブ・ロック)やジャズも大好きだったようで。逆に、父はクラシックピアノ1択で、王道のクラシックを好んで弾いたり聴いたりしていたんです。様々な音楽が同じ家の中で共存している。子供ながらにその環境が面白いと感じていた気がします。
専門学校だとジャンルや自分の色を決めることを推奨されるんですけど、私は自分の色を決めたくないと思っていて。私自身、音楽以外にも様々な経験をしてきたので、限定するのではなく、色んなものをミックスしたうえで破壊して再定義して新たなものをつくっていきたいと思っています。
ーテーマやデザインが決まったところから実際に形に落としていく時、どんなことを考えながら作成していたのでしょうか?エピソードなどがあれば教えて頂きたいです。
作っている時はスタイリングのことを考えていました。このドレスでどれだけスタイリングができるかを考えながら、パターンの後にディテールを少し加えたり、帽子やバッグなどの小物を増やしたりしながら仕上げていきました。また素材の使える部分は可能な限り使おうと思い、テントに付いていた部品や資材も余すところなく使用しました。生地を裁断する際もゴミを出さないようにするためにパーツ数を最小限にしたり、布の切れ端も極力捨てずに残った小さい布はプリーツの装飾として使用しました。そして、ギャザーのデザインを多く取り入れてボリュームを出す等、パターン作成に関しても熟考しました。
作業としては、まずは2張り分のテントの解体から。無闇矢鱈に切り刻むと縫い代が取れなくなってしまったり、切れ端が出てゴミになってしまうので、折り込んで縫われているところを広げたりしながら糸を解いていきました。その作業が1週間くらいですね。そのあとパターンを引いてサンプルを作成して縫い上げる…この部分は3週間くらいで行いました。これは今までにないくらいすごいスピード!制作中、気がついたら10日間家から出ていなくて。 身体が痛くて気付きました。でもあの時は寝るより作りたい一心で…アドレナリンがすごかったです。自分でも凄まじい集中力だったと思います。
ーすごい勢いで制作されたんですね!完成した時はどんな気持ちでしたか?
やばい、巨大なものを作ってしまった。と思いました。(笑)
ーでも作品にエネルギーをかけた分、反響も大きかったような気がしています。SNSからのご縁で一青窈さんも着用されたと伺いました。
そうなんです。私のInstagramに載っていたドレスの写真を見て、イベントで着用したいとオファーしてくださいました。昔から音楽に精通している身としてはアーティストの目に留めてもらえたこと、そして着ていただけたことが心の底から嬉しかったです。
イベントはグローバルな大企業の環境問題に関するイベントだったそうです。ドレスは参加者からも好評だったと聞き、日本だけではなく世界中の視点で見てもらえたことは本当に嬉しかったです。
※イベントで一青窈さんが着用された写真。
ボリュームがあるのでハリウッドスターも着ることができるサイズだそうです!
熱い熱量そのままに制作を進めた礼さん。
あんなに立派なドレスが約1ヶ月で作られたとは驚きです!
後編ではドレス完成後に作成したフォトストーリーについてお届けします。
NewMake:@newmakelabo
Aya Kadoi:@ayastyle.tky__
文・前口祐喜子