溢れるほどの物語が生まれた夜:表参道ランタンナイト
雨も似合う街だなと思った。
ショーウィンドウの光に照らされた雨粒は、高いヒールを履いたオシャレな女性によって地面を跳ね上がり、それから、ぴと、と染み込まないはずの灰色の地面の中に沈んでいった。
雨は嫌いじゃないけど…今日は降ってほしくなかったな。
今日はこの光り輝く街、表参道で、なんとキャンプをするらしい。
■雨上がりの表参道
土砂降りでも一生懸命キャンプの用意をしてくださっていたのは、今回の旅の会場である東急プラザ表参道の6階「おもはらの森」を提供してくださる「東急不動産」、素敵なキャンプグッズを準備してくださった「Coleman」、そして素敵な食事を提供してくださる「bills表参道」の皆さんだ。
誰一人この雨に文句を言うことなく、ただ雨が止むことだけを祈りながら準備するその姿を、きっとお天道様は見ていたのかもしれない。次第に少しずつ少しずつ、空から流れ続けていた雨の蛇口は締まり始めた。
実はキャンプ経験のない私、テントの張り方も椅子の組み立ても全部が初心者。何もなかったところにテントができて、椅子やテーブルが配置されて、明かりが灯る。その過程を見ているだけで、空が暗くなっていくのと反対に、私の心は輝きでいっぱいになる。
一気におもはらの森は幻想的なキャンプ空間に。ここが表参道だということを、あっという間に忘れてしまう。
■あちこちに散らばった、物語のピースを集めるように
18時、いよいよお客さんたちがキャンプ会場にやってきた。普段はスターバックス表参道店に来店されたお客さんたちに多く利用されるスペースだけど、今日はいつもと違った雰囲気に、参加者だけでなく会場を通り過ぎる人の全てが驚いている様子。
ここで何が始まるんだろう…という皆のざわざわした表情を見ていると、ちょっとだけ誇らしげで、でも私だって何が始まるのかわからなくて、もぞもぞした気持ちにもなる。
一人、どこに行けばよいか困っている人がいたので話しかけてみると、大丈夫です、と断られてしまった。そうだ、テントがあちこちに散らばったこの会場で、居場所をどう見つければよいのかわからずおろおろしているのは、私だけではないんだ。
そんな私たちの大きな不安と緊張が流れる不思議な時間を変えてくれたのは、billsさんの食事だった。
色とりどりのオードブルコースは、まさに女性たちにとってインスタ映えの聖地。みんなでカメラを向け、目をキラキラさせながら一品一品にピントを合わせていく。いつまでも料理を食べる気配がないので(笑)、誰よりも早く料理をお皿に盛りつけた。とお皿に盛ったその瞬間、カメラマンや取材陣が一斉にカメラを私に向けてきた。
うーん、早く食べたい!(笑)
一方で、他のゲストたちは各々で写真を撮りあい、みんなで話をしながら食事を片手にテントに入っていくのを見つけた。さっきまでは不安そうだった皆の顔つきが全く変わっている。素敵な食事は雰囲気までも変えてしまうみたいだ。
■ゆかりさんの音色に癒されて
美味しい食事を堪能している中、ついにランタンナイトが始まった。おもはらの森の中央に改めて参加者のみんなが集うと、こんなにたくさんの人がここにいることを改めて実感する。
最初にみんなの気持ちを一つにしてくれたのは、空気公団の山崎ゆかりさんによるスペシャルライブだった。
実はゆかりさん、私が人生で初めてインタビューをした相手で、お会いしたのは1年ぶり。優しくて温かいゆかりさんの雰囲気の虜になり、曲を聴き始めて1年が経ったが、今日こんな素敵な形でゆかりさんの生歌を聴けるなんて…
私以上に感動していたのが、今回のスペシャルライブのために福岡から来られたというゲストの方だった。
ゆかりさんのライブに耳を傾けるゲストたちの瞳には、ランタンのオレンジ色の灯に音色による感涙が重なってきらきらと輝く。おもはらの森が灯りでいっぱいになった瞬間を、私は目と耳と心で感じた。
■コミュニティテントA「Our Base」
2時間で4つもあるコミュニティテントを全部回れるかなぁ…と不安に思いつつ、Aテントへ。
温かい雰囲気あるテントの中で大きくて真っ白な模造紙をテーブル一杯に広げ、その前でbillsの料理を片手にゆっくり絵を描き進めていたのは、マーチン、こと林さん。
みんなと談笑しながら書いているはずなのに、その絵がとんでもないくらい上手。「おもはらの森」でみんながやりたいを基に、林さんが絵を描き進めていくという、ライブドローイングによる「私たちの秘密基地を考える」空間だった。
林さんによると、ライブドローイングの魅力はずばり「なんでもできちゃうような気にさせてくれる」ということこと。
実際大人になればなるほど、「やりたい」という素直な感情は、予算や集客など、様々な社会的な壁に幾つもぶつかるうちに、「やりたい」というそもそもの感情さえ自分の中で閉じ込めてしまいがちだ。しかしやりたいことを目に見えるように表したら、何だか本当に叶うような不思議な気持ちになってくるのだという。
実際に目の前に描かれている、みんなの想像でできたおもはらの森は、現実では難しいことばかり。
結婚式をあげてみたり、紙飛行機を表参道の街に向かって投げてみたり、ぐりとぐらのような大きなパンケーキをみんなで作って食べてみたり、大きな大きなキャンプファイヤーをしたり。
一人一人の願いから生まれた1枚の絵を見ていると、なんだか本当にこの場所でできてしまうような気がして、胸が熱くなる。
ライブドローイングは、実は会社の事業や打ち合わせなど、本来ならば堅い環境でも利用できるのだとか。みんなの凝り固まったアイデアをほぐしてくれるライブドローイングは、実はそのような場所ですごく重要なものだったりする。
林さん、実は普段は渋谷区の公務員として働かれていて、一方で札幌にゲストハウスを作るなど、街を掛け持ちしてまでご自身の描く絵のように、縛られない、自由な活動をされている。
林さんのように、思いつくままに絵が掛ける人になりたい。そして思い描く絵のように、常に自由で広い心を持ち続けていたい。
■コミュニティテントB「Journey」
林さんの絵の完成を楽しみにAテントを出て、Bのテントへ。天井に沢山の写真が飾られていて、笑顔が素敵な女の人に「どうぞどうぞ」と手招きしてもらい中へ。
既に中には3人ほどのゲストの人たちがくつろいでいて、「ここが一番おちつくのよ~」と教えてくれながら仲良く話していた。その中に最初は緊張されていたあのゲストの方も輪の中に入っていて、このテントの懐の大きさを実感する。
そしてこのテントの家主は、先ほど笑顔で手招きしてくださった、倉持美紀さん。
彼女は「TAFICA」のメンバーとして世界中を旅している、まさにこのテーマにふさわしいパワフルな方だった。
倉持さんは、グラフィックデザイナーとして普段はお仕事をされているが、「旅と共に生き、旅と仕事を両立させたい」という想いのもと、旅先をオフィスにするプロジェクトをフリーランス仲間の2人と共に始めたという。
そんな彼女に聞く、旅先での話やおすすめの国、ユニークなお土産の話はどれも聞き惚れてしまうくらい面白く、「ここが落ち着く」と話していたゲストたちの気持ちがよくわかる。
更にこの空間ではもう一人の家主が。テントの入り口に掛けられた沢山の布を使ってワークショップをされていたのが、山路裕一郎さんだ。
好みや雰囲気に合わせた布を一緒に選んで、巻き方まで教えてもらえる。
大きな布を対角線上に真っ二つに切り裂く瞬間は、最初はちょっぴり緊張して、それから爽快感に変わっていった。初めて首に布を巻いたが、案外私、いけるかもしれない。
彼は「誰でも主役になれる」という手段として、布を使ったワークショップを始めた。と言っても、こんなに沢山の人とお話したのは初めてだそう。
山路さんにとって、きっとこのテントでの思い出が一つのスタートになるんだろうなあ。
■コミュニティテントC「Craft」
名残惜しい想いをしながらも倉持さんと山路さんのテントを抜けて、テントCへ。
このテントの家主は、やっぱりかわいい焙煎士のぼっこさん。
「やっぱり」と書いたのは、ぼっこさんとは今年の2月にアウタビ北海道のイベントでお会いしていたからだ。お茶目で、周りの人をすぐ笑顔にさせてしまうぼっこさんの力は相変わらずのようだ。
ものがたりが含まれているぼっこさんの珈琲豆。今回は「本の虫」というコーヒーをいただいた。優しくてしっとり味わい深いぼっこさんコーヒー。また飲めて、よかった。
今日のぼっこさんはちょっぴり忙しそうで、あちこちのテントにコーヒーの配達も行っていて、そのたびに各テントでお話に花が咲いてしまうため不在のこともしばしば(笑)。それがまたぼっこさんらしくて、すごく好き。
■コミュニティテントD「Bucket Lists」
1番怪しかったのがこのテント(笑)。中にはテントの家主的な人は誰もいなくて、代わりにPCが一台置いてあった。
ここにいたのは、取材で来られていた編集部の方と、先ほどのテントで一緒になったゲストの皆さん。怪しいPCのキーボードをクリックしてみると、なにやら質問がでてきた。
なるほど、このPCの質問に沿ってこのテントのコミュニティは作られていくというのか。
「もしも一週間が8日あったら何に使いますか」「あなたがこの7日でありがとうを言いたい7人の人は?」など、ユニークで、結構考える必要がある質問が沢山出てくる。
最初は質問に沿って真面目に考えていた私たちも、いつの間にか話がそれてくるというのが女子あるある(笑)。みんなで膨らんだトークはいつのまにか大脱線を起こし、PCの質問も3問目のまま。(笑)
話をしていて居心地が良いのは、すごいことだと思う。初めて会った人たちと、こんなに自分の想いや物語を話し合えるなんて。
いつのまにか私たちはおもはらの森の魔法にかけられてしまったみたいだ。
■魔法を解くように