神田山緑さんの『本当に怖い!お寺の本堂で聞く、講談師の怪談』
◾️恐怖への誘い
「怪談イベントの取材に行きたいです」と手をあげたのは8月中旬のことだった。参加が決まったものの、実はホラーや心霊など、怖いものは大の苦手。やはり行くのを辞めようかと何度も考えたが、行くならばせめて誰かに慰めてほしくなり、つい母に泣きつくと「もう21歳になるんだから、怪談くらい平気よ。もっとしっかりしなさい!」とばっさり言われてしまった。確かにもう年齢は20歳を超えたし、殻破りも必要かもと思ったが、それにしても母にだけは慰められたかった。行かなくちゃ、でも怖い…そんなアップダウンをいつの間にか2週間も繰り返し、ついにその時はやってきたのだった。後ろを振り向くと…ベッドの下からなにかの音が…なんて怯えることがないように、これまでになく敏感に、瞬時に、きっちりと準備を済ませた。そして、もう大丈夫だ!と変な自信をつけ、ドヤ顔で出発。
■初めての人形町
今回やって来たのは、人形町。初めて降り立つ街にワクワクしている。
駅を出て一番に目に飛び込んできたのは「甘酒横丁」という看板。家で発酵させて手作りするほど甘酒好きな私は、もちろん向かわずにはいられない。通りに入ると、お茶屋さんで美味しそうにほうじ茶ソフトを食べる女子大学生や、老舗のたい焼き屋さんでおしゃべりしながら順番を待つおばあちゃんたち、下町の温もりを感じられるお店や街並みが、老若男女問わずみんなに愛されているように見える。そんな温かい雰囲気に癒され、ぼ〜っとしながら歩いていると、金物屋さんの真横にあった公衆電話を発見。
年季の入った見た目に、今にもリリッ……リリリッッ……と鳴り出しそうな不気味さを感じ、
「怪談を聞きに行くんだった…」と思い出す。
普通なら公衆電話を見ただけでおびえるはずはないのに、なんだか急に寒気がしてきたのは、これから始まる旅のせいなのだろうか。
■いざ…
そして本日の会場となる大観音寺に到着。いよいよ覚悟を決めるしかなくなった。もう、逃げられない、いざ中へ。私が到着した頃、会場は既に参加者でいっぱいで、一人で参加している人はもちろん、ご友人同士、親子連れと、幅広い世代の方がいらしていた。怪談好きって意外と多いんだな、みなさん肝が座ってるなあ。と感心すると共に、一緒に聞く仲間がいるということに安心して、少し緊張が和らいだ。別室で待機していた私たちは、いよいよ本堂へと移動。ばたっ……ばたっ……順にゆっくり 階段を上がっていく。階段をのぼる音でさえ、いつもより敏感に反応してしまう。私ってこんなにビビりだったっけ。 誰もいなくなった部屋。さっきまで気にしていなかった額縁の絵がやけに大きく見え、絵の中の仏様にジーっと見つめられているような気がした。
神聖なる本堂の中は限られたスペースであるためスタッフは中に入れず、神聖な場所であるため写真撮影はNGとのこと。普段は月に1度ほどしか開放しない空間らしく、今回のイベントも特別に行うことができたそうだ。襖の間からチラッと見えた御仏壇、真っ暗な空間にゆらゆらと揺れるロウソクの火。外から でも十分に怖い雰囲気を感じとれる。
◾️はじまりはじまり…
まず、住職様からのお話。人形は「愛眼」「願い」「呪い」の道具として使われてきたという歴史があることや、近年、人形供養に来る方が多くなっているということを聞き、人と人形との関係性の深さを感じた。私は人形たちを大切にできていただろうかと少し反省。昔遊んでいた人形たちはどこにしまったんだっけ。
そして、粋な柄が印象的な⻘い着物姿の神田山緑さんが登場。神田さん、今日はお客さんの空気感で今日話す物語を決めるという。自らの最近の話やおもしろ話をしていたと思うと、いつのまにか四谷怪談の一つ『お岩さん』が始まっていた。さすが講談師、思わずすっと世界観に引き込まれてしまうような話し方だ。講談自体を生で聴 いたのが初めてだったので、あまりに滑らかな話の進み方やテンポ感に感動し、怪談を聞いているはずなのに何故か心地よいという不思議な感覚になった。とは言っても、やはり怪談は怖い。途中から目を瞑って想像しながら話を聞いてみたが、お岩さんの苦しむシーンや、化けて出るシーンは怖すぎてハッと目を開けてしまうほどだった。
◾️旅を終えて
怪談が終わり、瞑っていた目を開く。終わってホッとしたのか、手にたまっていた手汗がス ッと引いた。外で聴いていても十分スリル満点だったから、きっと中で聴いていた参加者の 皆さんはもっと怖かっただろう。と様子が気になり、声をかけてみると「本堂の切迫した空気感や薄暗い雰囲気がスリリングでした」「少人数、小部屋で怪談を聞く機会はなかなかな いのでとても楽しかったです」と笑顔で答えてくれた。やはり皆さん肝が座っている方ばかりだった。
最後は各々山緑さんと写真撮影をして、今日の旅は終了。最初はあんなに怯えていたが、結果的に講談の面白さを知り、そして一つ苦手を克服することができて、マリオでいう赤いキノコをGETしたような一回り大きい自分になれたような気がする。
無事に旅を終え、自分の撮った写真を確認していた時のこと。旅の最後に、三緑さんの写真を一眼レフで撮らせていただいたのだが、何故か画質がとても荒くなっていたのだ。それは一体なぜだろう・・・。
神田山禄さんのストーリー(体験)はこちらから
鹿子木千尋