Yet21~選択するということ~
「Yet21~踊り場のわたしたち~」は、たくさんの21歳体験記を集める読者参加型企画です。
自分の今までを見つめなおし、これからを考える、まさに「人生の踊り場」のような時期である21歳。
その物語をAETEに集めることで、選択や葛藤の渦中にいる誰かの救いになったり、そっと背中を押したりできないかという想いから生まれました。
人の数だけある21歳の物語。まずは編集部の物語から発信していきます。
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大切なことも、細かいことも、ずっと直感的に決めてきた。
それが結構いいほうに転んでばかりだったから、きっと私の直感は正しいのだろうと思っていた。
だから、就職活動の始まりも直感だ。
説明会で出会ったとある会社に惚れ込み、「ここに行く」と周囲に告げた。
「いいんじゃない?」「向いてると思うよ。」
多くの人が言い、私もそう信じていた。けれどひとりだけ、待ったをかける人がいたのだ。
「なんでそこに行きたいの?」
うまく言葉で返せない私。
「そこにいくのもいいかもしれない。でも、もっと大きな世界を、あなたが知らない世界を知りなさい。」
そう、言われた。
大きな世界を知るってなんだろう。どうしたらいいのだろう。
直感ではだめなの?
きっと良さそうな会社を見つけているのに、どうしてそこではいけないの?
今までそんなことを言われたことがなかったから、戸惑う私。
その人は「動いてごらん。そうして人の話を聞いてごらん。」と声をかけ、言われるがままたくさんの大人に話を聞きに行った。
大人たちは、こちらが戸惑うほど親切に、彼ら彼女らのこれまでやこれからを教えてくれた。
その物語たちはどれも不思議に力強く、たくましい響きを持っていた。
話を聞くのはとても面白い。ためにもなる。
けれどたくさんの人生の物語に触れるうち、それらは必要以上に大きく強く私に迫ってきた。
自分なりの正解を見つけた人の綺麗な話が息苦しかったのだ。
彼らの話と比べたとき、私の意志があまりに頼りなく、空っぽであると感じていたから。
あれ、なんであの会社に行きたかったんだっけ。
そもそも何をやりたいんだろう。どうしたら私は幸せになれる?
そのために今、何を選べばいいんだろう。
最初信じていた直感はどこかへ消えた。押しつぶされそうな自分だけが残り、時間は淡々と過ぎてゆく。
それでもたくさんの物語に触れるにつれ、ああそうかもしれない、という考え方に出会うことがあった。
そんないくつかの「そうかもしれない」をくっつけて、入れ替えて、編集して。
いつの間にか私の未来は、うすぼんやりとだけど形が見えてきたような気がしていた。
でも、それが正しいなんて自信はちっとも持てないまま。
周りの友人は当たり前のようにやりたいことを語るから、私はなんでこんなところでぐるぐるし続けているのだろうと、そんな焦りばかりが募っていく。
未来像やキャリアプランを明確に語れない私を雇ってくれる会社なんて、きっとないだろう。そうやって自信なさげに面接を受けていると、ある日面接官が言った。
「孔子の言葉に『四十にして惑わず、五十にして天命を知る』とある。孔子ほどの偉大な人でも40歳になるまで迷い、50歳になるまでやるべきことがわからなかったのに、20年そこらしか生きてない若者が何かを決めきろうなんて、そんな虫のいい話はないよ。」
するすると、気が抜けていくような気がした。
完璧な答えを語ることしか許されないと思っていた私にとって、面接官からのその言葉がどれだけ救いとなったか。
焦らなくていい。
今あるものを逃がさないよう捕まえて、考えながら一歩ずつ確かに歩んでいけばいい。
そんなふうに思えたとき、不思議に私は前向きになっていた。
そうやって、等身大のまま面接を受けられるようになってからしばらくたったころ、最初から行きたかった会社に内定をもらった。
そのころにはもうたくさんの魅力的な会社に出会っていたから、始まりのときのようにすんなりと「行かせてください」とは言い切れなかった。
だけど比べて悩んで考えて、ぼんやりとある私の想いに近いのは、やっぱりここだとそう思った。
結局は、直感を信じる形になった。
でも、これは直感じゃなくて選択だ。
いろんな話を聞いて、いろんな道を考えて、悩んで苦しんでそうして見つけた私の道だ。
大きな世界を知るって、知らない世界を知るって、この過程のことかもしれないなんて、そんなことを思っていた。
進路を報告したとき、私に向き合ってくれたあの人は、頑固だねと笑いながらハイタッチをしてくれた。でも、いっぱい悩んだその選択を誇りに思う、とも言ってくれた。
とっても嬉しくて、すがすがしい気持ちだった。
今だって相変わらず直感で動くこともある。
だけど、それだけじゃない。選択は常に苦悩と葛藤がつきもので、それでも考えれば考えるほど、その分自分の糧に、支えになってくれるのだと知った。
まだまだ私の未来は確かじゃない。不安だってたくさんだ。
でも急がずにじっくりと向き合って、考えながら選びながら、そうして私は私だけの正解を探していこうと思っている。
AETE4代目編集長・中村斐翠