AETE あの人がいるから旅したくなる。アエテ

20年度編集長
鹿子木 千尋

津々浦々と出会いを大切に旅をしています。 一つ一つの思い出を素直な言葉で綴れるひとになりたい。

2020.02.05

使う誰かの幸せのために。洗練された美意識のストーリー:渋谷モノコトガタリ

会えて report

◼︎遅い初詣

1月31日。冬真っ盛りな時期だというのに、まるで春のような暖かい陽射しが射している。
あまりに気持ち良さそうなので、今日は、ずっと行く機会を逃していた初詣に出かけることにした。
向かったのは、毎年家族みんなで参拝をしている地元の小さな神社。
ゴミひとつない境内、美しく剪定された木々に光が当たり、きらきらと輝く。
参拝客が少ないときにも綺麗に整備されているんだなあと感心していると、いつもは素通りしてしまっている立て看板がたまたま目に入った。そこには、この神社は昭和に1度全焼し、多くの苦労を経て再建させたと記されてある。
なるほど、守りたいという想いから、この神社を常に美しく保とうという‘‘美意識’’が生まれたのか。
清々しい空気の中お参りを済ませ、背筋を正されたようなシャキッとした気持ちで神社を後にした。

さて、参拝をした後は、東急プラザ渋谷へと向かう。
今日は、第2回渋谷モノコトガタリ。(第1回のレポートはこちら
『渋谷モノコトガタリ』とは、東急プラザ渋谷の3階、月替わりのテーマにあわせ、4つの特別な商店が期間限定で出店するコンセプトショップ「111-ICHIICHIICHI-」。そこに出店されている4ブランドの方々にブランドストーリーを伺い、モノ・コト・ヒトについて語り合うコミュニティイベントだ。

今日の会場は、東急プラザ渋谷1階にある、観光案内所「shibuya-san」

素敵な料理も並べられ、なんだかワクワクしてきた。

2月17日まで開催されている今期のテーマは「日本の美意識を感じさせるものづくり」。
今日は、出店されている「KIYOKAWA」「5858koyakoya・iwatemo」「デニム研究所」「ikue」の4ブランドの皆様にそれぞれのストーリーを伺う。

◼︎手仕事にこだわる鞄作り

まずはじめにお話しいただいたのは、下町の老舗鞄メーカー『KIYOKAWA』の2代目社長である松村さん。
松村さんは、婿養子として業界に入り、下町の職人さんたちに厳しく指導をされながらも献身的に会社を支え続けてきた。

時代の変化によって、お客さんに求められる鞄の種類も変わってきたなかで、
あるとき松村さんは、原点に返って‘‘ものづくり’’について考えたという。
そして、たどり着いたのが「手仕事と素材にこだわる鞄作り」。現在、デザインを娘さんが担当し、素材は1つ1つ表情が違う革やアクセサリー職人により施される口金にこだわり、多くの職人さんの手によって1つの鞄を作り上げている。深刻な職人不足がささやかれているなかで、機械ではなく、あえて人の手仕事を大切にしようという方針は挑戦的だが、素晴らしい。一部として妥協しない姿勢から奥深い美意識を感じる。そうして作られた『KIYOKAWA』の鞄は、シンプルでありながら、温もりのある上品な佇まい。持っているだけで凛とした女性なったような自信をくれそうだ。

 

◼︎縁が生み出す、新たなものづくり

次にお話しいただいたのは、『5858koyakoya』という岩手の物品を中心としたセレクトショップを運営し、北欧のデザインと岩手のものづくり技術で誕生したプロダクトブランド『iwatemo』のディレクターである工藤さん。工藤さんは、元エンジニアということもあり、WEB関連やデザインはお手の物。
イベント企画やPRまで幅広く活躍する、まさに「何でも屋」だ。

地元である盛岡に帰ってきて仕事をしているうちに、色々なジャンルで活躍している方々と繋がり、東北のものづくりをもっと伝えたいと思うようになったという工藤さん。仕事の1つとして受けたフィンランドでのイベントで、岩手のものづくりとフィンランドのデザインをコラボレーションさせたら何か良いものができるのではないかというひらめきが生まれたそうだ。そして、工藤さんが縁と縁をつなぎ合わせて生まれたブランドが『iwatemo』である。

iwatemoで扱っているのは、鉄瓶と椅子と陶器。シンプルなデザインでありながらも、お客さんの使いやすさを一番に考え、1つ1つ丁寧に作られている。岩手とフィンランド。一見何も繋がりのないように思える両者を、暮らしを豊かにするために生まれたデザインがつなぐ。なんて素敵なことだろう。日本のものづくりには国境を超えるほどの強い力があることに感動した。

 

◼︎感じ、伝えるデニムの魅力
3番目にお話をいただいたのは、岡山県倉敷市のデニムメーカー『JAPANBLUE』が運営するショップ『デニム研究所』の船木さん。

船木さんは、もともと東京のセレクトショップでバイヤーを務めていた方。デザイナーさんつながりでご縁があって、デニム研究所を運営する『JAPANBLUE』に入られたという。JAPANBLUEが持つ5つのブランドには、コンセプトや素材、作り方1つ1つにこだわりがある。その個性を、履き比べながら感じてもらえる空間を作りたいとの願いでつくられたのが『デニム研究所』だそうだ。「商品の良さを、使って欲しいターゲットに向けて自分の言葉で伝えていくことを大切にしています。」と、船木さん。そんな船木さんのお話を聞いていたら、色落ちを楽しんだり、生地の違いを味わうことができる‘‘本物のデニム’’に出会いたくて仕方がなくなった。粋な大人になるための第一歩をデニムとともに踏み出せたらかっこいい。

 

◼︎ものづくりも関係作りも丁寧に

そして、最後にお話しいただいたのは、アクセサリーブランド『ikue』のデザイナーである原田さん。

元は電化製品の企画・デザインをしており、2015年に独立。器械体操でインカレに選ばれるほどの実力者という、面白いバックグラウンドを持っている方だ。現在は、愛するうさぎと暮らしながら「この人と働きたい!」と心が動かされるクライアントと共に、ジャンルを問わずあらゆる分野のプロダクトデザインに挑戦している。「このアクセサリーをつける人が幾重にも増えていってほしい。この技術が幾重にも続いていってほしい。」という想いで名付けられたikueは、金と紙で作られた上品なジュエリー。技術を持った職人さんによって作られる繊細で面白い形に、思わずみとれてしまう。「新しいチャレンジをしている分、お客様から批判を受けることもありますが、一つ一つ丁寧に答えを出すことで次の販売に繋げています。」と原田さん。デザイン性だけでなく、原田さん自身の丁寧で誠実な人柄にとても惹かれるものがあった。

 

◼︎モノコトガタリタイム

ゲストトークの後は、「日本の美意識」というテーマで、モノコトガタリタイム。ぐるっと小さい円を作って、参加者それぞれの思う「日本の美意識」を、ヒントを交えながら当てていく時間だ。

耳を傾けていると「イチロー!」「田園風景!」「漢字!」など、一人一人違ったワードが聞こえてくる。人の話を聞いて同感し合ったり、新しい発見や会話が生まれている風景は、この大都会渋谷の中で、きっとここだけ。特別な空間だ。

「日本の美意識を感じさせるものづくり」をテーマに行われた、今回の渋谷モノコトガタリ。
使う誰かの幸せのために、一つ一つを細部までこだわり抜く洗練された美意識がそれぞれのストーリーから感じられた。

ここ渋谷から、もっと多くの人に想いを届けてゆきたい。

文:鹿子木千尋

撮影:植田陽樹


今回のイベントはこちら

111-ichiichiichi-について:

 

前の記事前の記事 BACK TO 会えて 次の記事次の記事

アスエ event