AETE あの人がいるから旅したくなる。アエテ

2023.01.07

アエテ interview

ー人の持つクリエイティビティに目を向ける、というのは先ほどの「知覚」にも通ずるものがある気がします。直井さんは「人から学ぼう」というセンサーが立っているというか。

そうですね。
そういえば、先日講演会を一緒にしていた人が「人の中には必ずクリエイティブ力と言うのがあって、それを発揮できるような環境を作ればだれもがクリエイティブな人になれるんだ」という話をしたんです。それを受けて、自分も「地域のクリエイティブ力を高めたい」とずっと思っていたなと感じました。場を作ることで、いろんな人のクリエイティビティに触れたいという想いもある気がします。

■直井さんに影響を与えた 2 つの本。

私が影響を受けた大切な本が 2 つあるので、紹介させてください。
1 つ目は「あなたが世界を変える日」という本。リオデジャネイロの地球サミットで 12 歳の女の子がしたスピーチの本です。
「自分で手に負えなくなるようなことはしないでおこう」という至極当たり前の内容なのだけど、自分がデザイナーとして創作だと思ってやっていることが、地球の裏側では破壊でしかないという両面性を意識させられる話でした。
私が出版業界で本が売れないということに対し強い危機感を抱いているのは、この本に出会ったからだと思っています。

―というと?

本って、待っていても売れないんです。出荷した本のうち半分くらいは返本されて捨てられるし、古本市場に出回ってもあんまり売れなかったりします。この「浪費している感じ」に対する違和感、危機感をずっと感じているんです。
CHICACU には、そこに対する何らかのきっかけになればいいという期待もあるんですよね。読者や著者、編集者などあらゆる人のハブになっている本屋であれば、本を買う人、本やメディアを大切にして応援しようという気概のある人に出会えるんじゃないかなと考えています。

2 つ目の本は、宮崎駿の「本へのとびら」。児童文学の意味について語る本です。その中に「児童文学は基本的に『生きてていいんだよ』ということをこどもに伝えるため、自分で自覚できるようにするために書かれている。」と記載があって。物語って、それくらいシンプルなのかと思ったんですよね。それが自分にとってのメディアの価値、コミュニティの価値の根源にある気がします。

私もまちの中に、児童文学的な場所を作りたいと思っています。自分が自分のままでいいのだと思える、まあそんなこともあるよねぇとか言いながら明日を迎えられる、そんな場所に CHICACU やハムハウスがなったらいいなと考えています。

(この後「本へのとびら」を読み、ようやく「児童文学的なもの」について私なりに理解できた気がしました。その時の感想は 10 月 30 日の編集部日記に綴っています。)

直井さんのインタビューで印象的だったのは、終始一定の熱量を保ってお話されていたこと。ひとつひとつの想いの欠片にきちんと向き合い考えて、自らの力で今に辿り着いたのだろうと思わせる温度感があり、心から信頼できる言葉ばかりでした。

「こうなりたい」と思わせてくれる直井さんのような魅力的な大人が、自分の住む町にいる。それだけで、地元の町が大好きになれた気がして、そんな「人」の存在もまちを選ぶ理由の一つになる気がしています。

きっとさいたまに限らず、いろんな町にいろんな表情があって、匂いがあって、生活があって。
町単位で起こる面白いことや人に目を向けていけたら、きっと毎日はもっと魅力的になるんじゃないかな、とそう思いました。

中村斐翠

前の記事前の記事 BACK TO 敢えて 次の記事次の記事

アスエ event