AETE あの人がいるから旅したくなる。アエテ

2021.09.15

アエテ interview

『タビマチ』は、
どこかに活動拠点を持ち”旅やまちを彩る”お仕事をされている方々へ
歩んできた物語やまち・ひとへの想いを伺うインタビュー連載です。
彼らの物語や想いに触れ「会いたい!話してみたい!」と思ったら
次はあなたが素敵な人々がいる、あのまち、あの場所へ、旅をしてみて下さい。

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普段アルバイトにいくために通る道を、別の目的で通る。それだけで全く違う景色に見えるから不思議だ。今回取材で訪れたLONAさんのある町は、東京都・台東区。「EAST TOKYO」と呼ばれ近年にぎわっている蔵前・浅草エリアから少し歩いた、合羽橋の奥である。
革鞄、革小物を作る職人・LONAの青木さくらさんと知り合ったのは、蔵前にある私のアルバイト先。何度かご来店していただく中で、自然とお話しする機会があった。
革に限らず職人さんが多いこの町で、ひと際エネルギーにあふれる青木さんに、ものづくりや彼女自身についてお話を伺った。

◼️革職人となること。ものづくりの原点。

ー今日はよろしくお願いします。最初に、なぜ青木さんが革職人を目指したのかという、原点となる部分をおたずねしたいです。

はい。私はもともと、物作りが好きなんです。専門学生時代、授業の一環でレザーを使う機会があり、面白いなと思いました。卒業後も、働きつつ、趣味で革を買ってきては自分で手縫いなどをしていました。
職人を志したきっかけは、20歳くらいの頃に開いたイベントに遡ります。知り合いの花屋さんにあるギャラリーを借りて、自分の革作品を売るというイベントをさせていただいたんです。そうしたら、通りすがりの方や花屋さんのお客さんなど、私の作品を知らない人も含めて予想以上にお客さんが来てくれました。目の前で喜んで、可愛いねって言ってもらって、とても楽しかったです。
自分の作品が認められて、お金になって、かつとても喜んでもらえる。「販売する」という行為は初めてだったのですが、それまで感じたことのなかったワクワク感に痺れましたね。こういうことを仕事にできたらいいなぁと思いました。

ー自分の満足だけでものづくりをするのではなくて、お金をいただいて、目の前で喜んで頂くこと。それが一番の根っこみたいなものになっているということですね。

そうですね。若い時に対面で販売して、いいなあと思っていた経験から、今もこうして店舗で販売しています。ほとんどの職人さんは、工場や工房の中で作品を制作しているので、お客さんに販売する機会があまりないんです。私はそれよりも、自分で作って、かつそれらを対面で販売したいと思っていました。
「目の前で販売する」という点は、私が仕事をする上で大事にしているところのひとつです。独立前に働いていた、革鞄工房のHERZも、工房と店舗が一緒になっているスタイルでした。


◼️東北から東京へ。そして台東区のこと。

ー仙台の HERZ さんで長く働いたあと、昨年、東京・蔵前の Kawamura Leather(以下カワムラレザー)さんで、シェア工房という形で独立されました。革職人としての上京を目的に東京にいらっしゃったんですか。

革職人としての上京ではなく、プライベートで結婚を機に東京に来ました。HERZには店舗が複数あるので、仙台から移動し、都内にあるHERZの店舗で働いていたんです。その中で、自分でやりたいと思うきっかけが何度かあり、31 歳の時に独立を決めました。その時ご縁があって紹介してもらったカワムラレザーさんが、たまたま蔵前にあったんです。

ーカワムラレザーさんが蔵前に繋いでくれたんですね。

ご縁があり、たまたま蔵前のシェア工房でスタートしましたが、自分の店舗を持つなら絶対に東京がいいと、元から思っていました。独りでやっていると、横のつながりが大切です。だから、なるべく多くの繋がりを持てる環境である東京にフラッグシップを持ちたかったんです。
こうやって取材していただくこともそうですが、東京って、人と人との距離が近いというか、繋がりを作りやすいですよね。特に独立して最初のうちは、自分を発信し、知ってもらう意味でも、その近さがとても重要だと思いました。紹介など、人と繋がるスピード感は田舎とは全然違うと思います。だから、大前提としてちゃんと東京で頑張ろうと思っていました。ここで頑張れれば、多分どこでもやっていけるかなって。

ーその後、合羽橋そばにある現在の工房に移転されていますが、この場所を選んだ理由は何かあるんですか。

空気の肌感もあるし、革関係でものづくりをするなら台東区がいいなと漠然と思っていたので、エリアから物件を探していました。

ーこの辺は革に限らず職人さんも多いし、道具屋さんも多いですよね。

そうそう。だから仕入れも楽ですね。ほかにも天井や広さなど、いろいろこだわりがあったので、それにぴったり合う物件として、今の場所に落ち着きました

ーこのあたりで働く中で、印象的な出会いやエピソードはありますか。

出会いばかりです。
例えば、このお店の裏側の店舗がたまたま同じく革屋さんで、作業中にもよく「何か足りないものはある?」って気にかけてくれます。上の写真にある機械も、その方づたいで手に入れました。
この辺りの革関係の人は自宅で作業する方が多いのですが、年齢的な理由から、廃業する方が多いんです。そういうところからときどき、機材が廃棄物として出されます。その方から、欲しかった機械が廃棄になることを紹介していただいて、入手できました。ほかにも、機械を運ぶ人や電気工事の人など、全ていろいろな方からの紹介なんです。

ーそれってやっぱり台東区の特徴なのかな。私も台東区でアルバイトをしていて、温かい感じがします。お互いの会話が始まるハードルが低くて、どんどん横に繋げてくれてくれる感じ。

まさにそんな感じです。下町だからなのか、競いあうというより、助け合うというか。

ーものづくりに携わる人も多いから、お互いの苦労が分かったりして、助け合おうっていう気持ちになるんですかね。

そうだと思います、お互いの苦労も分かりますし。特に私は女独りでやっているということもあり、気にかけてくれたり助けてくれたりする人も多いです。隣の加工紙屋さんも、「困ったことがあったら言ってね」と言ってくれます。先日も、六角が必要で借りにいって。そのお礼にラスクを持っていったら、倍くらいの量のお煎餅になって返ってきました(笑)

ーわらしべ長者みたい(笑)

本当にみんなそんな感じなんです。競い合うとかがあまりなくて。人情がある人ばっかりです。

◼️青木さんのものづくり。LONAでしか作れないものを。

ーものづくりについて伺っていきたいです。作品づくりにおいて大事にしていることは何かありますか。

「NOBLE CRAFT」をコンセプトにしていて、佇まいが上品になるようなものづくりを目指しています。素材にもこだわってて、イタリアンレザーというのを使っています。それがすごくいいものだから、無駄なことをしないように気を付けているかな。
あと、個人的に金具がすごく好きなので、金具一点主義です。華美にならないよう革とのバランスを考えたうえで、金具を一個いれて、革も金具も引き立たせる。かつ持っている人が上品に見えることを心がけていますね。ものが上品に見えるということよりは、それを持った人が上品に見えて、かつ持っている人の気分が上がるようなものになればいいなあと思っています。

ー青木さん、金具ハンターを名乗っていらっしゃるイメージがあります(笑) 金具から入ったりすることもあるんですか。

ありますね。この辺りって金具屋さんがすごく多いので、自足で金具をすぐに探しにいけるんです。それもこの辺りが好きな理由の一つですね。
金具を買ってから考えるということがすごく多いです。金具は可愛いものがいっぱいあるので、面白そうと思って買う。そこからデザインを考え始めるという感じです。
金具を選ぶときは、自分がときめくかどうかという、肌感のようなものをすごく大事にしています。だから逆に、ときめかない、上品な佇まいが浮かばないようなものは、依頼をいただいても作らないです。この境目を定義することって結構難しいのですが、「LONA でしか作れないもの」を作ろう、という基準で考えています。依頼を受けるか受けないか、その区切りは自分で決めていますね。

ーものづくりの原点を大事にして、自分の作りたいものを作る、ということですね。

そうですね。そうしないと、何のために独立したのか分からなくなり、虚しい気持ちになってしまいます。自分のやりたいことが何のためにあって、誰を喜ばせたいのか。それを忘れないようにすると、この取捨選択ができるのかなと思います。

◼️これからの話。

ー1周年を迎えましたが、この後やっていきたいと思っていることなどを、最後に教えてください。

やりたいこと、いっぱいあります。デザインすること自体が好きなので、革だけでなくキャンバス地を使ったり、鞄だけでなくノートを作ったり。色んなプロダクトに挑戦してみたいです。例えば革のペンケースを作ったら、次はそれに合うペンを作って、という風に派生させていく。LONA の世界観が崩れなければ、色んなものを作ってもいいんじゃないかなと思っています。私の世界観で喜んでもらえれば、何でもいいんです。
たまたま私には革がとても向いていたというだけで、自分も幸せで、かつ周りの人をも幸せにできれば、仕事って何でもいいんだろうと思います。だから、これからも柔軟にやっていきたいですね。
1 人の人が一つだけの仕事をする時代じゃなくなってきているし、人生ってそれくらいでいいんじゃないかなと思います。だから自分のやりたいことに常にアンテナを張って、やってみようという気持ちを持って挑戦してみて。それが楽しくてかつ人よりもちょっと得意だったら、またそれが仕事になるっていうことかなと思うし、そうやって仕事をしていきたいです。

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